コラム 2021.04.26. 20:00

守護神、そのギリギリの世界【白球つれづれ】

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広島・栗林良吏

白球つれづれ2021~第17回・クローザーたちの明暗


 広島のルーキー、栗林良吏投手が凄い。

 25日の巨人戦で9回に登場すると12戦連続の零封。8セーブ(26日現在、以下同じ)はヤクルト・石山泰雅投手と並びリーグトップの快進撃だ。

 中身がまた凄い。対巨人3連戦の勝ち越しがかかったゲームは2つの大きな試練に打ち勝った。試合は8回表の時点で広島が6点をリード。楽勝パターンでストッパーは今日の出番はなし、と心の準備を解いてもおかしくない。ところがその裏に中継ぎ陣が次々に打ち込まれてあっという間の同点。栗林にとって緊急登板に近い状態だった。

 9回に1点を再びリードして迎えたマウンド。次なる試練は巨人の打順だった。若林晃弘、丸佳浩、岡本和真選手と2番からクリーアップにつながる強打線、試合の流れもあって、新人には酷とも思える場面だ。しかし、この新守護神はプレッシャーをものともせず三者連続三振に斬ってとる。

 3月27日の中日戦で初登板初セーブをマークしてから12イニングを無失点。さらにこの間、打者40人に対して許した安打は2本だけ、奪三振は18に上る。すでに前日時点でセ・リーグ新人の連続無失点記録を樹立しているが、お次はソフトバンク・甲斐野央投手の持つ13試合連続無失点の新人記録を射程に捉えた。

 常時150キロ台のストレートは伸びといい、制球力も一級品。加えて同じフォームから曲がり落ちるフォークも文句なし。巨人戦でも4番の岡本が連続してワンバウントするフォークを空振りしている。「一球入魂」を地で行くような闘争心あふれるマウンド姿も素晴らしい。マスコミの注目度では阪神の佐藤輝明選手に譲っても、3、4月の月間MVP最有力候補に躍り出たと言っても過言ではないだろう。

 栗林の歓喜の裏で泣いた守護神たちもいる。先週ほどストッパーの明暗が分かれた週も珍しい。代表例がロッテの益田直也投手である。


過酷さを増すストッパー業


 23日のソフトバンク戦、1点リードの9回の場面で登場したが中村晃、松田宣浩選手らに4安打を喫して敗戦投手となった。開幕カードとなったソフトバンク戦でも2試合連続で逃げ込みに失敗してサヨナラ負け。いずれも益田が責任を負った。昨年は31セーブを記録した守護神でも精彩を欠けば奈落の先に突き落とされる。それが過酷なストッパーの世界である。それでも翌24日の同カード、2点差の最終回に首脳陣は益田にすべてを託し、リベンジを果たした。

 これに先立つ22日には西武・増田達至がオリックス戦で3点リードを守り切れずに沈没。24日には中日、ライデル・マルティネスがヤクルト戦でサヨナラ負けを喫している。いずれも絶対的守護神と言われる男たちがまさかの暗転ドラマの引き金役となった。

 チームを勝利に導く仕事人がストッパーである。先発投手なら年間25~30試合に登板して15勝も挙げればエース。打者なら10打数で3度結果を出せば3割打者の称号が与えられる。しかし、ストッパーは抑えて当たり前。打たれれば他人の勝ち投手の権利までなくして、チームにおおきな打撃を与える。因果な商売だ。

 長年、抑えのエースを務めれば勤続疲労も蓄積する。体調によって球威、コントロールにもばらつきが出る。さらに、データ野球が進むから持ち球の配球パターンや球筋まで丸裸にされていく。心理的負担まで考え合わせると最も過酷なポジションである。

 加えて、今季は特殊な事情も増えた。コロナ特別ルールによる延長戦なしの試合形態だ。通常シーズンなら8回を終えて同点の場合、延長戦まで考慮して即ストッパー起用とならないケースでも、今季は9回打ち切りによって出番は確実に増えていく。

 栗林を例に挙げると、広島が26試合消化時点で12試合の登板。このペースでフルシーズンを戦うと65試合近くの登板数に達する。いかにも登板過多だろう。他球団の抑えも同様な状況で、チームによっては長丁場の疲労蓄積を考慮して3連投をさせないよう、ベンチ登録から外す措置も行われている。

 「先発完投は投手の華」と言われた時代から分業制に移行。今では守護神の存在価値は高まるばかりだ。ソフトバンク・森唯斗投手の推定年俸は4億6000万円。各球団の多くのエースより上を行っている。そんな森でもシーズン序盤は不安定な投球が目についた。仮に打たれて負け投手になってもショックを翌日に引きずらない。強い精神力も守護神の絶対条件のひとつだ。

 優勝チームには必ず優秀なストッパーがいる。開幕から1カ月。守護神たちのギリギリの戦いが熱いペナントレースを演出する。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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