コラム 2021.04.27. 07:09

「春団治」に「世界一の代打男」…球史に残す“伝説の代打”列伝

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新たな「代打の神様」候補として注目を浴びるヤクルト・川端慎吾 (C) Kyodo News

“代打稼業”の男たち


 試合の終盤、ここぞの場面で登場し、ひと振りで主役の座を奪っていく「代打の切り札」──。


 今季も開幕戦で巨人・亀井善行が代打サヨナラ弾を放ったのを皮切りに、最近ではヤクルト・川端慎吾が驚異的な代打率をマークして「新・代打の神様」になりつつあるなど、出だしから各地で“代打屋”の活躍が目立っている。




 プロ野球の代打は、おおまかに分類すると3つに分けることができる。

 まずは若手の登竜門としての代打と、かつてのレギュラーが晩年に代打に回るというケース。

 そしてもうひとつ、今回紹介するのが、打撃ひと筋に生きる“代打稼業”の男たちである。



ラストチャンスで劇的な一打!


 1人目は、“球界の春団治”の異名をとった川藤幸三(阪神)だ。

 入団時は俊足と堅守が売りだったが、1975年に両足アキレス腱を痛め、満足に走れなくなったのを機に、代打に活路を見出した。


 1980年には代打打率.412をマークしたが、34歳になった1983年オフ、チームの若返りから戦力外通告を受ける。

 だが、「給料は要らないから来年も阪神でプレーさせてほしい」と哀願し、60%ダウンの年俸480万円(推定)で再契約。以来、“春団治”と呼ばれるようなった。


 翌年、川藤は4月10日の大洋戦でタイムリー二塁打を放ったが、以降は8打数無安打5三振とさっぱり打てなくなり、登録抹消が決まっていた。

 二軍落ちすれば、そのままシーズンを終え、現役引退の可能性が濃厚だったが、島野育夫コーチが「カワにもう一度チャンスをやってくれ」と安藤統男監督に直訴。

 そうして迎えた5月17日のヤクルト戦。3-3の9回に、ラストチャンスの「代打・川藤」が告げられた。


 そんな舞台裏を夢にも知らない川藤は、頭の中で映画「ロッキー」の主題歌を鳴り響かせながら、「必ず打てる」と信じ、梶間健一から左前安打。見事勝利につなげる。

 さらに翌日の広島戦でも安打を記録すると、6月4日の大洋戦では、延長10回に遠藤一彦から劇的なサヨナラ2ラン。“代打の切り札”の座を不動のものにした。


 現役最終年の1986年は、前半戦で4本塁打の活躍が認められ、全セ・吉田義男監督の推薦で19年目にして初のオールスター出場。

 同点で迎えた第2戦の9回二死、左中間を真っ二つに破り、二塁を狙ったが、かつての俊足の面影もなく、余裕でタッチアウト。

 「ワシにとっては、あれは1.5塁打や」と二塁ベースにしゃがみ込み、変顔でひょうきんポーズを披露したシーンは、今も多くのファンの記憶に残っている。


代打通算安打の日本記録を持つ選手とは…


 一方、代打通算安打「186」の日本記録を持つ“日本一の代打男”といえば、宮川孝雄(広島)だ。

 プロ5年目の1964年に打率.337と22打点を記録し、外野のレギュラー獲り目前だったが、翌春のキャンプで右足を骨折。復帰後、主軸がチャンスで打てないチーム事情もあって、代打の切り札に指名されると、同年から4年連続で代打打率3割以上をマーク。

 その一方で、1966~1967年と2年連続でリーグトップの8死球を記録するなど、死球率も高く、相手チームから「自分から当たりに行っているのでは?」の声も出た。


 1972年6月20日の阪神戦では、内角球が右肘に当たったにもかかわらず、故意と見なした球審にストライクを取られ、必死の抗議も聞き入れられず三振。後輩・達川光男も顔負けのエピソードである。

 それでも、同年は8月3日の巨人戦から同17日の阪神戦まで6打席連続代打安打(歴代3位タイ)も記録。この快挙の直後、宮川は「相手投手を自分のペースに引き込むことだが、何より大切なのは、ひと振り勝負という精神だね」(週刊ベースボール72年9月11日号)と語っている。

 打席で素振りをしながら、捕手が構える位置をチラ見。次の球のコースを予測すると、ピタリと当たった。また、安打が続くと、相手が必要以上に警戒するようになり、結果的に打ちやすい球が来る。何もかも思いどおりに運んだ同年は、自己最高のシーズン打率.404をマークした。


 当時の世界記録だった代打通算安打数は、2004年にマーリンズのレニー・ハリスに更新されたが、通算代打起用回数778回、代打通算118打点は、今も日本歴代トップである。


代打通算本塁打の世界記録を達成


 代打通算本塁打27本の世界記録を持つ“世界の代打男”が、高井保弘(阪急)だ。

 1964年に入団以来、二軍暮らしが長く、苦労して上がった一軍でも、同じファーストに石井晶とダリル・スペンサーがいたため、出番なし。

 1970年に5本塁打を記録するも、翌年は加藤秀司にポジションを奪われ、またも二軍に逆戻り…。そんな不遇の日々が情けなくなり、ビールの大ジョッキ26杯をヤケ飲みしたのもこの頃だ。


 だが、1972年に打撃不振の加藤に代わって5番を任されると、代打本塁打5本を含む15本塁打を記録。ようやく陽の当たる場所に辿り着いた。

 1974年には通算14本目の代打本塁打を放ち、中西太(西鉄)らの日本記録を塗り替えると、「高井のように長い下積み生活をしたうえ、1球にすべてを賭ける代打稼業で苦労している男にこそ、一度檜舞台に立たせてやりたかった」と、全パ・野村克也監督の推薦で初のオールスター出場が実現。

 そして、球宴の夢舞台でも、代打男は一世一代の働きを見せる。

 第1戦の9回、1点を追う9回一死一塁で登場した高井は、左中間席に球宴史上初の代打逆転サヨナラ弾を放つ。

 「こんなに素晴らしい一発は初めてですよ。一生忘れない」と涙ぐむヒーローに、この一発でMVPを奪われた全セの4番・王貞治(巨人)も「たいしたものです。同じ野球人として感激しましたよ」とエールを贈った。


 さらにドラマは続く。

 翌75年8月27日のロッテ戦。1回表に森本潔の代打で登場した高井は、ジェリー・リンチ(パイレーツ)を更新する通算19本目の代打本塁打を放ち、ついに世界記録を樹立。

 これらの輝かしい実績をもたらしたのは、下積み時代に“スペンサーメモ”に触発されて始めた“高井メモ”だった。相手投手のデータを集めた膨大な数のノートは、かけ替えのない宝物になった。


 ひと振りに賭ける代打男は、打席に立つまでの準備期間も“戦いの場”であることを改めて認識させられるエピソードである。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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