第16回:21歳右腕の経験と成長
ヤクルト4年目の金久保優斗が、飛躍のときを迎えている。今季は開幕ローテーション入りこそ逃したものの、4月14日のDeNA戦(神宮)で6回途中3失点と力投し、プロ初勝利を飾ると、同30日のDeNA戦(横浜)ではプロ最長6回106球を投げて5安打無失点。2勝目を挙げた。
「ストレートが一番自信のあるボール。思い切って投げることができました」。ストレートは最速151キロを計測したが、球速よりも球質にこだわりを持っている。高津臣吾監督も「ストレート自体はすごく力があって、真っすぐを投げてファウルが取れる」と金久保の持ち味を評価した。
プロ入りから道のりは険しかった。2017年ドラフト5位でヤクルトに入団したが、1年目の18年5月に右肘を故障。トミー・ジョン手術を受け、苦しいリハビリを乗り越えてきた。
昨季、3年目で初めて一軍昇格した際には「やっと一軍に来られて素直に嬉しい」と、胸の内を明かし、ようやく一軍の舞台で腕を振ることが叶った。
指揮官は4年目の成長株に対し「いろいろな経験をさせたい」と、5月7日の巨人戦(東京ドーム)で先発ではなくリリーフで登板させた。金久保は2点リードされた5回に登板し、3回無失点でチームに流れを呼び込むと、味方が逆転に成功。見事3勝目をつかんだ。
「中継ぎ陣は大変な仕事だと思う。その気持ちもわかりますし、僕が先発して長いイニングを投げれば少しでも楽に投げられる。そういう考えもできた」。リリーフ陣の苦労を肌で感じることで得た経験は、先発としても生かすことができる。
7回、8回を投げ抜き、いずれは「完投できるピッチャーになっていきたい」と話している金久保。「完投能力」を備えるべく、21歳右腕は大きく羽ばたこうとしている。
先発の軸を確立できるか
ヤクルトが上位争いに踏みとどまるには、先発投手陣の踏ん張りが欠かせない。
今季のここまでの戦いぶりを見ると、先発投手が7回まで投げ切った試合はわずか3試合。8回、9回を投げ抜いた投手はひとりも現れていない。金久保が話したように、先発陣が長いイニングを投げられれば、リリーフ陣の負担も軽減できる。
高津監督は「体力的にもしんどいし、精神的につらいときもあるでしょうけど、そこで乗り越えられるかどうか。強い精神力を持って準備できるか、マウンドに上がれるかというところは、すごく大事なことだと思います。本当によく頑張ってくれている」と、リリーフ陣に励ましと労いの言葉を並べた。
現在は、開幕投手を務めた小川泰弘、開幕ローテのひとりだった高梨裕稔が相次いで抹消されている。小川は5月2日のDeNA戦(横浜)で2回6失点と打ち込まれ、高梨に関しては課題といえる6イニング目を投げ切ることができていない。
巨人からトレードで加入し、開幕2戦目に先発した田口麗斗はここまで1勝2敗、防御率4.02という成績で、本拠地である神宮球場でまだ勝ち星を挙げられていない。スアレスも2試合続けて5回持たずに降板するなど、安定感に欠ける投球が続いた。
一方で若い力の台頭もある。4月8日の広島戦(神宮)でプロ初勝利を挙げた奥川恭伸は、5月5日の阪神戦(神宮)でプロ最長6回を投げ2失点と好投。2年目の今季は成長した姿を見せている。ここまで3勝0敗、防御率1.85の金久保と共に、先発の軸としての期待は大きい。
さらに、新型コロナの影響で合流が遅れていたバンデンハーク、サイスニードの2人の新外国人投手がどれだけ力を発揮してくれるかによって、今後の戦い方が変わってくる。
開幕前の下馬評を覆し、現在リーグ3位と健闘を続けるヤクルト。先発の軸を確立し、2年連続最下位からの逆襲へギアを上げていきたい。
文=別府勉(べっぷ・つとむ)