右の有望株が多い高校球界

　高校野球は各地の春季大会、大学野球は春季リーグ戦。そして社会人野球は日本選手権対象大会と、アマチュア球界も公式戦が本格的に行われる時期となった。

　プロアマ野球研究所では、その中から積極的にドラフト候補を紹介している。今回は全国屈指の実力を誇る高校生の大型サウスポーを取り上げる。




　今年の高校生はプロ注目の好投手が多いと言われているが、小園健太（市和歌山）をはじめ、達孝太（天理）や風間球打（ノースアジア大明桜）、畔柳亨丞（中京大中京）、森木大智（高知）など、上位候補として名前が挙がるのは右投手が多い。

　左投手をみると、選抜高校野球では石田隼都（東海大相模）や木村大成（北海）が好投したが、活躍が期待された松浦慶斗（大阪桐蔭）はもうひとつの出来だった。

　他にも、先日の記事で紹介した沢山優介（掛川西）、中学時代から大器と評判の金井慎之介（横浜）、191センチの大型サウスポー・羽田慎之介（八王子学園八王子）といった面々の名前も挙がるが、やはり右投手に比べると少し評価は下がる印象を受ける。



▼ 久野悠斗（報徳学園）
・投手　
・186センチ／85キロ　
・左投左打

＜主な球種と球速帯＞
ストレート：136～143キロ
カーブ：115～120キロ
スライダー：122～126キロ
カットボール：133～135キロ
チェンジアップ：116～120キロ

＜クイックモーションでの投球タイム＞
1.23秒

最速142キロを計測、体力の充実も目立つ

　そんな中、この春にわかに有力候補として浮上してきたのが久野悠斗（報徳学園）だ。

　1年秋から控え投手としてベンチ入りし、チームの県大会優勝に貢献。そのピッチングを初めて見たのは、2019年11月に行われた「くまのベースボールフェスタ」という毎年行われている大規模な練習試合だった（※2020年はコロナ禍により中止）。


　遊学館との試合に、久野は背番号10をつけて先発。筆者は別の球場へ移動するため3回までしか見ることができなかったが、相手打線をノーヒット、1死球に抑え込んでいる。

　この時のストレートの最速は129キロだったが、長身で悪い癖のないフォームで、体が大きくなればどんどん速くなりそうな印象を受けた。


　昨年は新型コロナウイルスの影響で公式戦が少なく、久野を見る機会がなかったが、今年4月18日に行われた春季兵庫県大会の柏原（かいばら）高校戦で久しぶりにそのピッチングを見ることができた。

　立ち上がりは、不運な当たりもあって連打を許すなどいきなり一死二・三塁のピンチを招いたが、続く打者をショートフライと三振に抑えて切り抜ける。

　3回から4回にかけては4者連続三振をマーク。さらに、5回には先頭打者にヒットを許すものの、巧みな一塁牽制でアウトとし、7回無死二塁のピンチでは送りバントを許さずに無失点。

　味方打線がなかなか点を奪えない重苦しい試合展開だったが、8回裏にようやく奪った2点を守り切り、11奪三振で完封勝利を飾った。


　1年秋時点の記録を見ると「183センチ・72キロ」となっているが、現在は「186センチ・85キロ」と、目に見えて体つきが大きくなった。

　この日の最速は142キロと、最近の高校野球では決して目立つ数字ではないが、立ち上がりから終盤まで140キロ前後を常にマークしており、体力的な充実ぶりも目立っている。

大型サウスポーながら高い制球力を誇る

　何よりも素晴らしいのが、これだけの大型サウスポーでありながらも、高い制球力を備えているという点だ。

　上半身の無駄な力を使わない流れのスムーズなフォームが特徴。体の近くで楽に腕を振ることができ、コーナーいっぱいに投げ分けるコントロールは高校生離れしたものがある。

　また、カーブとスライダーを巧みに操り、右打者の外角を狙ってストライクをとるというのは、大学生や社会人でもなかなかできない高等技術である。

　あまり多くは投げなかったが、チェンジアップもしっかり低めに決まり、全てのボールをしっかり操ることができていた。

　前述したように、この日は11個の三振を奪ったが、それでも球数は105球というところに、久野の制球力の高さが良く表れていると言えるだろう。


　走者を背負っても落ち着いて投げることができ、球威や制球は最後まで落ちることはなかった。

　右足の踏み込みの強さや、フォームの躍動感には物足りなさも残るとはいえ、そのあたりが改善してくれば、スピードがアップする可能性は高い。


　速いボールを投げる投手は珍しくなくなっているが、これだけの制球力と試合を作る能力に長けた高校生はそういるものではない。しかも、貴重な大型サウスポーとなれば、その価値はさらに高いと言えるだろう。

　この日の試合には多くのスカウト陣が視察に訪れていたが、このまま調子を落とすことなく、夏まで順調に過ごすことができれば、今秋のドラフト指名も十分に考えられるだけの投手であることは間違いない。


☆記事提供：プロアマ野球研究所