白球つれづれ2021~第20回・混パを左右する負けない男の今後
パ・リーグのペナントレースがとんでもない様相を呈している。
17日現在(以下同じ)、首位の楽天から5位のオリックスまで3ゲーム差。わずかに遅れる最下位の日本ハムでも5.5差の大混戦で、3連戦3連勝でもすれば、どこが首位に立ってもおかしくない混戦模様だ。
大本命のソフトバンクや、王座奪還を目指す西武に開幕から故障者が続出、ロッテは開幕5連敗からの再出発で、オリックスは2年目左腕・宮城大弥投手や杉本裕太郎選手の活躍などで健闘している。そんな中、安定した投打のバランスで首位を守ってきた楽天の勢いが5月に入ると減速している。今月の成績は5勝6敗2分け。中でも涌井秀章、田中将大、両エースでの連敗が痛い。
8年ぶりに国内復帰した田中は、15日のオリックス戦に先発も7回、吉田正尚選手に逆転3ランを喫して3敗目。8日の日本ハム戦でも敗戦投手となっており、国内での2戦連続黒星は実に11年ぶりのことだという。
マー君、神の子、不思議な子
「マー君、神の子、不思議な子」と名セリフを残したのは、元楽天監督で故・野村克也氏。ピンチを迎えても勝負所を抑えて白星を積み上げていく田中の特徴を的確にとらえた表現だ。
13年の楽天初優勝時には伝説の24勝無敗。ヤンキース時代の7年間でも78勝48敗と白星が大きく先行している。今月1日のロッテ戦で国内通算100勝(36敗)を記録したが、勝率.735は稲尾和久、杉浦忠、スタルヒンといった球史に残る大エースを大きく上回った。いつしか、「負けない男」が田中の代名詞となっていった。
“神の子”にいきなり試練が訪れたのは開幕直前の3月25日のこと。ブルペンでの調整時に、右ふくらはぎに違和感を覚えて検査を行った結果、同個所の損傷で全治3週間と診断され、予定されていた2日後の先発登板がなくなった。
ようやく8年ぶりの国内復帰登板となったのは、4月17日の日本ハム戦だが、中田翔選手らに手痛い一発を浴びて黒星スタート。その後、連勝して本来の田中らしいエース街道を走り始めるかと思われたが、そこから連敗を喫してしまう。目下のところ2勝3敗、防御率3.19は圧倒的な姿を見てきただけに物足りなさが残る部分もある。
「いい投球は出来たけど、勝てる投球ではなかった」と、オリックス戦後に語った田中には、石井一久GM兼監督も珍しく「少し逃げすぎている」と、バッテリーの配球を含めた注文を口にした。もう一つ、調子の上がってこないエースに指揮官も辛抱のしどころである。
日米の違いと挑戦
7年間のメジャー生活は、田中の投球スタイルも変えた。若い頃はストレートとスライダーを武器に力で抑え込むパワー投法だったが、力自慢の揃うメジャーでは目先を幻惑するツーシームや鋭く落ちるスプリットに活路を見出している。力投型から技巧派への転身。さらに堅いマウンドで投げてきたものを日本の柔らかいマウンドに再び合わせる必要もある。
コロナ禍で調整の難しさもあったのだろう。開幕直前の故障は下半身のストレスから生まれたものと指摘する関係者もいた。
日米の違いはまだある。初球でも、追い込まれてからでも、フルスイングしてくるメジャー流と違って、際どいコースに手を出さないケースの多い日本では、ボールゾーンに落ちるスプリットも見逃されやすい。それでもストレートやスライダーのキレが鋭い時は生きてくるが、復帰後はその日によって決め球にバラつきが生じているため、田中自身が納得のいく内容になっていないのだ。
「正直、13年(24連勝時)で皆さんの印象は止まっている部分はあると思う。求められているハードルは高いが、そこを飛び越えてやろうというのも自分のやりがいの一つ」と、1月の入団会見で語っている。それは同時に近い将来、再びメジャーに戻って再挑戦を視野に入れる田中の意気込みの表れでもあった。
個人的にはフルシーズンを投げ切れば15勝5敗くらいの数字を残せると予想していた。しかし、国内復帰の序盤は「チームに貯金をもたらす男」の姿から程遠い。
「あれだけの大投手だから心配はいらない。長く日本球界から離れていたのだから多少の時間はかかるでしょうが問題はない」(楽天関係者)
田中が負け越していても首位にいるということは、本来の調子を取り戻せば独走も見えてくるのか。それとも復帰初年度は勝ったり負けたりの日々が続くのか。“神の子”の不思議なシーズンは、真価を問われる時期が間もなくやってくる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)