“元女子高”の主砲
甲子園優勝からは遠ざかっているものの、高校野球で全国屈指の激戦区として知られる千葉県。
近年では木更津総合・習志野・専大松戸の3校がリードしている印象だが、他にも中央学院や東海大市原望洋、成田といった強豪がひしめいている。
そんな激戦区で、春の千葉県大会を初めて制したのが千葉学芸だ。
もともとは明治時代から続く伝統ある女子高で、2000年4月の男女共学化に伴い、東金女子高校から現在の名称に変更された。共学化と同時に創設された野球部は、当初はなかなか勝てない時期が続いたが、ここ数年は上位進出を果たす実力をつけている。
そんな中、今年の千葉学芸にプロから高い注目を集める選手がいる。主砲の有薗直輝である。
▼ 有薗直輝(千葉学芸)
・三塁手
・185センチ/94キロ
・右投右打
<各塁へのベスト到達タイム>
一塁到達:4.55秒
高校生とは思えない立派な体格
1年夏から4番を任されるなど、早くから評判となっていた有薗。筆者がそのプレーを初めて見たのは、2019年秋の千葉県大会・志学館戦だった。
「4番・三塁」で出場すると、好投手の相馬綾太(現・日本体育大)から第1打席でいきなりレフト前へタイムリーヒットを放った。
ヒットはその1本のみだが、続く2打席の中飛も一歩間違えれば長打という当たりで、思い切りの良いスイングとパワーは強く印象に残った。
昨年は残念ながらプレーを見る機会はなく、久しぶりにその姿を現地で見たのは、3月31日に行われた立花学園との練習試合。まず、驚かされたのがその体格の充実ぶりだ。
一昨年の秋も1年生にしてはかなり立派な体つきをしていたが、上半身・下半身ともに一回り以上大きくなり、高校生の中に一人だけ大人が混ざっているように感じるほどだった。
この試合では、先日「ベースボールキング」のコラムでも紹介した150キロ右腕の永島田輝斗からレフト前ヒットを放つなど、2安打・1打点の活躍。
第3打席の二飛も滞空時間が6秒を悠に超えるほど高く上がったもので、それだけヘッドスピードがあることの証拠といえる。
インパクトの音が明らかに違う
春の千葉県大会・準々決勝の中央学院戦では、第2打席で初球の甘く入ったスライダーをとらえると、打球は軽々とレフトフェンスを越える2ラン。
“パワー自慢”の選手というと、どうしても腕力に頼ったスイングになることが多いが、有薗は下半身も含めた全身をうまく使って、バランス良くバットを振れるというのが大きな長所だ。
外のボールに対しても踏み込みがしっかりしており、大きく体勢を崩されることもあまりない。体の回転の鋭さは申し分なく、ヘッドの走りも良いためインパクトの音が他の打者と明らかに違う印象を受けた。
また、打撃でもう一つ目立つのが積極性である。
観戦した3試合で本塁打を含む5本の安打を放っているが、そのうち4本がファーストストライクをとらえたもの。残りの1本も、最初のストライクは空振りと手を出している。
もちろん、なんでも振りに行っているわけではなく、数少ないストライクを逃さずにとらえようという意識の表れ。それを実行できるのも、無駄の少ないスイングという技術の高さがあるからに他ならない。
少し気になる点は、バットを引く動きが大きいところか。
中央学院戦で放った本塁打と安打は変化球を上手くとらえたものだったが、凡打となった打席では、内角の速いストレートに少し遅れる場面が目立った。大型スラッガーの宿命といえるが、このあたりの対応は今後の課題といえるだろう。
ドラフト上位候補に浮上も…?
有薗の魅力はバッティングだけではない。145キロを超えるストレートを投げる強肩の持ち主で、サードからファーストへの送球はまさに“矢のような”という表現がピッタリ当てはまる。
大柄ながら打球に対する反応も良く、立花学園との練習試合では三塁線を抜けそうな強烈な当たりを見事な動きで捕球。そこから素早く体勢を立て直して見事なスローイングでアウトにした。
有薗を指導する高倉伸介監督によると、チーム事情を考えると投手でもっと起用したい気持ちはあるが、有薗本人が打者としてプロを目指すために入学したという事情があり、なるべく野手に専念させているとのことだった。
かつてのサードと言えば、強打者が多く花形のポジションだったが、現在のプロ野球を見てもそのようなタイプは確実に少なくなっており、強打と強肩を兼ね備えた有薗は非常に貴重な存在と言える。
春の県大会を制したことで、マークは更に厳しくなることが予想されるが、夏の活躍次第では一気にドラフト上位候補へと浮上することも十分に考えられるだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所