第2回:急増する「2番・捕手」
今月8日から始まった西武対DeNAの交流戦3連戦。スコアボードには、西武・森友哉とDeNA・伊藤光が揃って「2番・捕手」で名を連ねた。従来、捕手の打順と言えば、一部例外を除いて7番か8番あたりが定位置。それが今季は2番打者に座る捕手が急増、まさに“異変”と言える。
2番で捕手の先鞭をつけたのはヤクルト・中村悠平選手だった。開幕前の構想では青木宣親選手が不動のポジションだったが、新型コロナの濃厚接触者に認定されて隔離期間を経験、状態が上がらなかったこともあり首脳陣も試行錯誤。ようやくたどり着いたのが中村の起用だった。
ヤクルトの高津臣吾監督も「(走者を置いて)流し打ちも出来るし、状況に応じたバッティングをこなしてくれる」と、「使い勝手の良さ」に高い評価を下している。交流戦に入り、青木の復調もあって下位打線に戻るケースも増えたが、9日現在(以下同じ)、打率.286はセ・リーグ打撃成績の11位と気を吐いている。
この中村を初めとして今季、「2番・捕手」に座ったのは前述の森、伊藤のほかに、ソフトバンク・甲斐拓也選手、オリックス・若月健矢選手がいる。若月は6月に入ってからのセ・リーグ主催試合で、甲斐は5月22日のオリックス戦で起用されたが、後者はチームにとって実に80年ぶりの珍しい記録となった。
それぞれのチーム事情
では、なぜ今、捕手の打撃が注目されているのか?
チーム事情によって千差万別ではある。西武・森の場合は、不動の2番打者である源田壮亮選手のコロナ離脱が引き金となる。
元々、クリーンナップを任されるチーム1、2の強打者で、一昨年の首位打者&MVP男。しかし、源田がいないレオ打線では1、2番の出塁率が極端に下がる。そこで辻発彦監督は、チャンスメイクと一発も期待できる“脅威の2番”として、チームの弱点を補った。昨年は打撃不振に泣いたが、打棒は急上昇。打率も3割近辺にまで上げてきた。
人材豊富なソフトバンクで、甲斐が2番を務めた裏には打撃の急成長もある。開幕直後は今宮健太選手の「定位置」だったが、故障を抱えながら調子が上がらず、多くの選手を2番で起用しても結果に結びつかない。そこで首脳陣が甲斐に目を付けた。
かつては「甲斐キャノン」の異名をとる強肩と堅守の捕手だったが、年々打撃力を増し、今季はここまで打率.261、7本塁打に29打点と、勝負強さを発揮している。このまま行けばキャリアハイの打撃成績も夢ではない。今後も打線の調子次第では再びの2番起用もあり得るだろう。
交流戦で12球団一の破壊力を誇るDeNA打線にあって、伊藤の2番は異彩を放っている。ラミレス前監督時代にはネフタリ・ソト選手ら最強打者を置くケースが多かったが、三浦大輔監督は打線全体のつながりを重視。シーズン途中から2番に伊藤を配することで得点力アップにつなげた。
「単に数字に表れる以上の働きをしてくれている」と、指揮官は高評価。後半戦のチーム浮上も一見地味な2番打者に託すようだ。
捕手だからこそ?!
現代野球で、2番打者の役割は大きく変わってきている。巨人の坂本勇人選手らに代表される強打者が2番に座れば、いきなりバントや進塁打と言った自己犠牲を強いることはほとんどない。しかし、各球団が坂本のようなスラッガーを並べられるかといえば疑問符がつく。
それならば従来型の2番打者を求めても意外に適任者は少ない。1番打者が出塁した無死一塁のケース。2番打者にはバント以外にも連打で続く出塁率の高さや進塁打も要求される。ヒットエンドランや、時には走者が二盗するまで「待て」のサインも出る。今の球界で、こうした2番打者の役割をこなせる優等生といえば、西武の源田、阪神の糸原健斗選手あたりか(共に離脱中だが)。
「野球脳」の高さで言えば、捕手ほど勉強しているポジションはない。相手バッテリーの配球を読む。自分が打席に立った場合には何がベストな選択か? 何をしたら相手は嫌がるのか? 従来型の「8番・捕手」なら、そこまで突き詰めなくても2番なら、かえって捕手の適性が生かせると考えてもおかしくない。
今後、酷暑の中の連戦を考えれば肉体的な厳しさは確実に増す。だが、西武の森などは元々クリーンナップでフルシーズンを戦っているのだから、他の「2番・捕手」だって一過性とは言えない。
一昔前なら、地味で縁の下の力持ち。今季はそんな捕手のイメージを塗り替える年となるかもしれない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)