最終回:交流戦のつまづき
ソフトバンク・工藤公康監督の表情が浮かない。
23日現在(以下同じ)のチーム成績は30勝27敗14分けのリーグ3位。大型連勝で首位を奪取したオリックスとは2.5ゲーム差。2位の楽天とは日替わりで順位の変わる位置につけているのだから、決して悲観する数字でもない。
だが、今月に入ってからの戦いは気になる。最大の誤算は交流戦の苦戦だ。
過去15年の交流戦において、8度の最高勝率を誇ってきた王者が今季はスタートの中日戦からつまずき2連敗。さらに4連敗(1分け挟む)があり、最終カードとなったヤクルト戦も3連戦3連敗で、わずか5勝で(9敗4分け)11位に沈んだ。リーグ戦再開後も、23日終了時点では1勝1敗3分けと、一進一退が続いている。
見慣れた光景?
6月の17試合だけを見ると打線の低調ぶりが顕著で、1得点以下が8試合に上る。控え層まで含めて圧倒的な戦力を揃えて勝ち進んできた不沈艦。ここまでの戦いをそれでも想定内と見るのか、それとも異変と見るのか。判断の分かれるところだ。
今や故障者の続出は見慣れた光景となった。今季もエースの千賀滉大が左足捻挫、守護神の森唯斗は左肘の手術で、ジュリスベル・グラシアルが右手指骨折と靱帯損傷で戦列を離脱。加えてリバン・モイネロらキューバ出身の主力外国人選手も東京五輪予選のためチームを離れたのだから(キューバは予選敗退)チームの骨格を形成するのも難しい。
今月中旬には昨年の盗塁王・周東佑京選手も右指の骨折で治療に専念している。現状の打線を見ると、柳田悠岐選手が気を吐いても、その前後を固定できないから、柳田をマークされれば得点力はガタッと落ちてしまう。
ちなみに、2カ月遅れの開幕となった昨年も真の強さを発揮したのは夏場以降だった。千賀や柳田の出遅れが響いて7月にはBクラスに転落、コロナ禍で入国の遅れたキューバ勢が戦列に戻った8月に8連勝で首位を奪還すると、ペナントレース終盤の10月に怒涛の12連勝で覇権を手にした。
我慢の時
23日のロッテ戦を引き分けた後、工藤監督はこう戦いを振り返っている。
「プラスに捉えていくことが何より大事。先々、あの引き分けが大きかったとなると思うので、そう信じてやっていきたい」。
両リーグ最多の14個の引き分け。勝ちに等しい引き分けもあれば、負けに等しい内容もある。悔しさを押し殺して前を向く指揮官だが、ここは我慢の時。少なくとも昨年までのような横綱相撲でないことは確かである。
今季開幕前にあるライバル球団関係者が「ソフトバンクに以前ほどの強さは感じない。付け入る隙は十分ある」と語っていた。最大の根拠はチームの高齢化にある、と言う。
なるほど、チームリーダーの松田宣浩選手は38歳、今季も一時は打撃不振で先発メンバーから外れることもあった。投手で見れば和田毅は40歳。レギュラーの脇を固める長谷川勇也36歳、川島慶三選手37歳など。そこに正遊撃手の今宮健太選手は故障の余波で全試合出場は難しく、外野の定位置獲りを期待された上林誠知選手の伸び悩みなどが戦力層を薄くしている。
柳田と共に“侍ジャパン”入りを果たした栗原陵矢選手は今季、外野以外に捕手、三塁手、一塁手として起用されている。5月のオリックス戦では甲斐拓也選手が同球団の捕手としては80年ぶりに2番打者として起用される“珍事”もあった。いずれも四苦八苦するチーム事情を投影している。工藤監督と言えば、昨年も「日替わり打線」を組んで頂点に立ったやりくり上手だが、その手駒が躍らなければ計算もたたない。
混パは続く
23日のウエスタンリーグ、阪神戦には千賀投手が先発している。すでにブルペンでは160キロ近い剛速球を投じているから一軍復帰はもう間もなくのようだ。この試合では2番手に高橋純平、3番手に甲斐野央、5番手に高橋礼各投手も登板。顔ぶれだけを見れば一軍より豪華な陣容である。彼らが一軍に戻ってくれば勝負になる。指揮官の目は夏場以降にも注がれているはずだ。
直近10年で7度の日本一になり、絶対王者の座を手に入れた。その最大の原動力は他を圧する投手力にあった。しかし、そんなホークスに死角があるとすれば今年のオリックス、楽天の戦力アップだろう。
首位を行くオリックスの現在の戦いは勢いが追い風となっている。しかし、山本由伸、宮城大弥、山岡泰輔らの先発陣はリーグ屈指の安定感がある。この先、オリックスとの天王山になった時でも、彼らを攻略するのは容易ではない。楽天もまた、投手力のチームだ。田中将大とルーキーの早川隆久両投手の加入で短期決戦にも対応できる陣容が揃った。逆にソフトバンク打線が上昇カーブを描けないようだと例年以上の苦戦も予想される。
首位から5位までが4~5ゲーム差の中にひしめく空前の混戦パ・リーグ。工藤監督が枕を高くして眠れる日は、まだまだ訪れそうにない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)