8月連載:球界、後半戦へのチェックポイント
東京オリンピック(五輪)が最終盤を迎えている。侍ジャパンの熱い戦いの裏で、12球団は13日から再開されるペナントレースに向けた調整に余念がない。
先月18日からスタートした「五輪ブレーク」は約1カ月近くに及び、この間のチーム再強化次第では、後半戦の戦いが全く違う様相を呈することもあり得る。「五輪戦士」たちの激闘による疲労度もペナントレースに影響を及ぼす可能性があるだろう。様々な角度から“第2ラウンド”に向けた重要ポイントを洗い出してみる。
第1回:復活をかけたエースと4番
本来であれば、侍ジャパンの大黒柱として東京五輪のマウンドに立っていたはずだった。しかし、春先からコンディション不良を繰り返し、5月には右肘の違和感を訴えて緊急降板。さらに7月に復帰登板を果たすも、本来の出来には程遠く一度は選出された日本代表の座を辞退するまでに追い込まれた。
そんな菅野に対して、宮本和知投手コーチが「特別扱いの撤廃」方針を明らかにした。今季は4度、一軍登録を抹消されている菅野だが、二軍での登板はゼロ。
「実績のある選手なので、自分で登板日を任せたけれど失敗している」と、これまではエースのプライドを尊重しながら復活を待ったが結果は思わしくない。そこで、従来の方針を撤回して「ファームで1~2試合、投げてから(一軍復帰)の方がいいかなと思う」(同コーチ)と、厳しい姿勢で臨むことになった。菅野が二軍戦に登板すればプロ2年目の14年以来7年ぶりとなる。
絶頂期からどん底へ。運命を呪いたくなるような1年である。
昨年オフには、ポスティングシステムを使ってメジャーリーグへの挑戦を決意。ところがコロナ禍の影響は大リーグの各球団にも直撃する。大物FA選手の交渉に時間がかかり、菅野の下にも複数球団からオファーはあったが条件面で納得できるものではなかったと言われる。苦渋の決断は巨人残留だった。
狂った歯車!?
今季の菅野の不振にメジャー騒動の影響を指摘する声もある。
昨年のペナントレースはコロナ禍で120試合に短縮されたが、それでも日本シリーズ終了は例年より1カ月近く遅い11月下旬までかかっている。束の間のオフも、メジャー球団との交渉のため渡米した菅野にとって休養らしい休養をとれないまま、自主トレからキャンプへと突入したからだ。大エースになっても毎年、進化を求めて投球フォームや新球マスターに取り組むのが通例だが、あまりに過密な日程が歯車を狂わせた可能性は大きい。
前半戦を首位・阪神から2ゲーム差で折り返したチームにとっても、菅野の復活なしに逆転は難しい。
「後半は何としてもローテーションを守ることが、彼の今後の野球人生を左右する」と宮本コーチは語る。このままでは今オフに再び目指すメジャー移籍にも赤信号が灯りかねない。勝負の時が間もなくやってくる。
勝負強い打撃が鳴りを潜め…
かつての侍ジャパンの4番打者も剣が峰の時を迎えている。日本ハムの中田翔選手だ。目下、エキジビションマッチから一軍復帰した主砲に対して栗山英樹監督は「体がしっかり動けば結果は残る」と期待しながらも、「打たなかったら二軍に落とす」と語っている。これまで、故障など特別な理由以外では二軍落ちさせず、復調を待ってきたが、こちらも特権のはく奪と言える。
昨年の打点王も今季は絶不調。4月には自らの不甲斐なさに腹を立てて、ベンチ裏で負傷。挙句の果てには急性腰痛で戦列を離脱した。チームは前半戦を最下位で終わっている。後のない栗山監督にとって温情をはさむ余地はない。4番不在の打線は相変わらず苦しいが、一方で野村佑希、淺間大基、万波中正らの若手選手が成長してきている。不振なら即二軍行きの最後通牒を突き付けられた中田がどんな結果を出すのか。
スポーツ選手は結果で評価されるのが常、プロであればなおさらだ。稲葉ジャパンで躍動する侍たちを眩しく見つめながらも、これまで球界を代表してきた男たちが復活を期す。自らのプライドをかけた戦いは、ペナントレースの模様まで変える可能性を秘めている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)