「塩対応?」のワケは…
場内をザワつかせる長い“沈黙”は、確固たる意思の表れだった。
8月15日の広島戦に3-0で快勝した試合後。京セラドーム大阪のお立ち台に、打のヒーロー・近本光司と並び立ったのは岩崎優だった。
一時帰国による調整過程のため、一軍に不在だったロベルト・スアレスに替わって“守護神”として登板した9回のマウンドで、無失点に抑えて今季初セーブ。
何より、金メダルを獲得した東京五輪後初めての登板だっただけに、勝利の“殊勲者”としてファンの前に現れた。
当然ながら、インタビュアーの問いかけも、当日の投球内容から晴れの舞台の話題へ移る。
Q.「五輪で学んだことは?」(インタビュアー)
A.「すごくたくさんのことを学ばせていただきました。ここでは語りきれないので、ちょっと、またどこかで」(岩崎)
そう答えたのを最後に、「言える範囲で何かひとつ…」との二の矢には、静かにうなずくだけで言葉を発することはなかった。
ファンの間では“塩対応”だと話題になっていたが、左腕からすれば、本意ではないはず。
このやり取りに複雑な事情は一切ない。岩崎からすれば、余韻に浸る時間はもう終わっており、次なる戦いは始まっている…ということなのだろう。
“もうひとつの頂点”に向かって…
むしろ、個人的には次の「今季初セーブの感想」に返したアンサーが印象的だった。
「みんなが良い形で繋いでくれて、8回の裏にも1点追加してくれたので、すごく自分も落ち着いてマウンドに上がることができました」
仲間の貢献に感謝──。
ヒーローインタビューでは聞き慣れた類のコメントと言えるかもしれないが、ちょうど1カ月前に聞いた言葉があったから、自分の中で深みが増した。
「調子が悪かった選手が結果を出していたり、自分が勇気付けられた部分はあります。それは(一軍にいて)今まで感じることはなかった部分なので」
不調で二軍降格となった6月。テレビ画面越しに目にするチームメートの活躍が大きな励みになったと言い、再昇格を果たした際には素直な思いを明かしていた。
ベテランがチームを去り、今季から若手主体の編成となって、背番号13は上から数えた方が早い中堅。勝ちパターンを担うポジションからしても、全体を引っ張る存在だ。
自身が一軍にいない間、時には落胆し、唇をかんでいた後輩たちが奮闘する姿に、燃えるものがあったのは確かだった。
後半戦初登板となった広島戦。先発の秋山拓巳からのバトンリレーには及川雅貴、馬場皐輔ら歳下の面々もあった。余計に「みんなが良い形で繋いでくれて…」に実感がこもっているように見えた。
「一人ひとりがやるべきことをやる。みんなが同じ方向を向いていけば良い結果はついてくると思う」
五輪後にこう語っていた30歳。多くのファンがその背に“おかえり”、“おめでとう”の言葉を送る中、岩崎はもうひとつの頂点へ駆け上がるための決意表明を、あのお立ち台で行っていた。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)