希少な右のスラッガー候補
史上初の“智弁決戦”が大きな話題となり、智弁和歌山の優勝で幕を閉じた『第103回全国高等学校野球選手権大会』。
あれから1週間が経ち、カレンダーも9月へ。もう1カ月もすれば、アマチュア選手たちの運命を決するドラフト会議を迎えることになる。
この甲子園でも多くのスター候補が誕生したが、ドラフト会議に向けてプロから注目を浴びている球児は甲子園出場者だけではない。
プロアマ野球研究所では、残念ながら地方予選で涙を呑んだ有力選手も紹介していきたい。
今回は、埼玉の高校球界が誇る右のスラッガー候補を取り上げる。
▼ 吉野創士(昌平)
・外野手
・186センチ/79キロ
・右投右打
<各塁へのベスト到達タイム>
一塁到達:4.31秒
三塁到達:11.70秒
中学時代から一目置かれる存在
投手と比べ、「上位指名間違いなし」と言える選手は少ない印象の高校生・野手。
その中でも、関東の野手と言えば、以前のコラムでも取り上げた有薗直輝(千葉学芸/三塁手)が高い評価を得ているが、その有薗と双璧と見られているのが吉野創士だ。
吉野のプレーを初めて見たのは、今から約3年前のこと。
ジュニア世代向けの媒体で、中学硬式の強豪チームである東京城南ボーイズを取材した時に、将来有望な選手として金井慎之介(現・横浜高)と高安悠斗(現・花咲徳栄高)の2人の投手とともに、当時捕手だった吉野にも話を聞いた。
その時は室内練習のみだったが、伸びやかなスイングは強く印象に残っている。
江戸川南シニアで松坂大輔(現・西武)などを指導した経歴を持つ大枝茂明監督も、「遠くへ飛ばすことに関しては今まで見てきた選手の中でも1、2を争う」と語っていたほどだ。
昌平に進学後も1年時から中軸を任されると、夏の埼玉大会では早くも2本塁打を放つ活躍。
高校で最初にプレーを見たのは1年秋の越谷西戦で、この日は無安打に終わったものの、ヘッドスピードと打球の速さにはさすがというものを感じた。
そして、最終学年となった今年。県内でも最注目の打者としてかなり厳しくマークされる存在になったが、春の県大会では4試合で2本塁打を記録。
この夏も、初戦の飯能南戦の最終打席で三塁打を放つと、4回戦の正智深谷戦でも第2打席であわや本塁打という特大の三塁打を放ち、チームの勝利に貢献している。
細身に見えるがそこは伸びしろ
吉野の大きな特徴は、「良くも悪くもフライが多い」という点だ。
今年の春から見た2試合・9打席のうち、死球を除く実に8打席がフライボール。そのうち3本がヒットとなっている。
中には高々と上がったため、外野手が目測を誤ったラッキーな安打も含まれているが、それだけ滞空時間の長い打球を放つことができるのは、ヘッドがよく走っている証拠である。
打ち方で少し気になるのが、バットを引く動きが大きい点だ。
リストの強さがある分、腕の力を使ってバットを振りたいという意識が強くなっているのか、どうしても反動をつける動きも大きくなり、内角の速いボールには差し込まれるシーンも目立つ。
ただ、それでも甘いボールは逃すことなく、初球から振っていくことができる。その積極性と、バットにボールを乗せるようにして運べる技術は大きな魅力である。
体つきは有薗と比べると細身に見えるが、飛距離は決して引けを取らない。上背に見合うだけの筋肉がついてくれば、さらに凄みが増す可能性は高いだろう。
また、もともとキャッチャーだったが、脚力も申し分なく、12.00秒を切れば俊足と言われる三塁打の三塁到達タイムは11.70秒。まずまずの数字をマークしており、センターの守備範囲や返球の強さも、ドラフト候補としては十分に及第点と言えるレベルだ。
冒頭でも触れたように、今年は投手と比べると野手に有力選手は少なく、右の長距離砲として高いポテンシャルを秘めた吉野は貴重な存在である。
そのような事情を考えると、若手の強打者が不足している球団が上位の枠を使ってでも獲得に動く可能性は十分にあるだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所