遅れてきた“洗礼”
奇しくも同じ日に一軍から姿を消すことになってしまった。
阪神は10日、佐藤輝明と藤浪晋太郎の出場選手登録を抹消。ファンの大きな期待を背負ってきた投打の2人だが今季、一軍で描いてきた軌跡は対照的だった。
鳴り物入りでタテジマのユニフォームに袖を通した佐藤は「怪物ルーキー」を地でいく爆発的な活躍で、開幕から首位を快走するチームの原動力となった。
開幕は6番でスタートした打順も、5月2日の広島戦(甲子園)でプロ初の4番を経験。本拠地のファンの前でグランドスラムを放つ離れ業をやってのけ、背中を痛めた大山悠輔に替わって同月7日からは、10試合連続で4番を任された。
「ももいろクローバーZ」のファンを公言していて、“推し”は高城れに。アーチを放った後にベンチ前で構えるカメラに向かって披露する「Zポーズ」も瞬く間に定着。このパフォーマンスだけでなく、堂々とした発言、面構え…。どれも「新人」という物差しでは測れない、規格外の“1年生”の登場に担当記者もとにかく驚かされる日々だった。
強烈に印象に残っているのは、5月28日の西武戦。3打席目までに2発をスタンドに叩き込むと、9回には豪腕のリード・ギャレットから右中間最上段へ、この夜3本目となる決勝3ランを突き刺した。
打った瞬間、バットを放り投げ両人差し指を天に掲げて歩き出す姿は、サンティアゴ・パドレスのこちらも「規格外」フェルナンド・タティスJr.をほうふつとさせた。
ファン投票で球宴にも選出され一流の仲間入り。広島の栗林良吏、DeNAの牧秀悟とハイレベルな新人王レースも先頭で引っ張ってきた。
プロの洗礼は少し遅れてやってきた。
五輪による中断期間を経て再開されたシーズン後半戦は最初の6試合で3本塁打と好スタートを切ったものの、8月21日・中日戦の第4打席に中前打を放ったのを最後に、快音はこつ然と消えた。
翌日からから13試合・35打席連続無安打で、ついに首脳陣は決断。プロ入り初となる二軍落ちだ。
“結果”が求められる藤浪
途中出場した佐藤が2打席連続三振に倒れ降格が決まった9月9日のヤクルト戦。マウンド上では背番号19が苦闘していた。
故障からの復帰初戦だった高橋遥人が6失点で降板となり、5回から2番手で登板。ドミンゴ・サンタナを外角低めの161キロ直球で見逃し三振に斬るなど圧倒した1イニング目とは別人のように、6回は初球から9球連続ボールなど3四球を献上。一死満塁とされたところでマウンドを降りた。
開幕投手で始まった今季も二軍降格、中継ぎ転向、先発復帰と浮き沈みの激しいシーズンを送る。今回も、先発予定だった試合が雨で流れてのブルペン待機で、巡ってきた試合で結果を残せなかった。
ポジションを転々としているのも、先発・中継ぎ両方で絶対的な力を示せていないことの裏返し。そこがファンも担当記者も、もどかしい。この夜も、大量リードを許す展開でスタンドが一番沸いた瞬間が、藤浪の名がコールされた時だった。
同じ二軍降格でも、佐藤輝はリフレッシュの意味合いもあり、実戦で数多く打席に立ち、打ち込みを行う時間を経ての再合流が待たれる。一方で、先発に戻る藤浪は再昇格には結果を求められる。
不在となって、あらためで感じたことがある。佐藤と藤浪は、タイガースが表現できるエンターテイメントの極みのような存在だったのだと。
みんな佐藤の特大アーチ、藤浪の“圧投”を欲している。熾烈な優勝争いが繰り広げられるシーズン最終盤。2人が沸かせるクライマックスを見たい。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)