いざ勝利の方程式へ
広島の救援陣にとっては、度胸の大切さをいま一度痛感するシーズンとなっている。
今季は開幕から一度も抑えの栗林良吏につなぐ形を固定できていないと言っていい。
勝ち継投入りに手をかけた投手は何人もいた。しかし、いざ終盤の接戦で起用されると、ことごとく本領を発揮できないパターンを繰り返してきた。
佐々岡監督が就任当初から救援投手に求め続けてきた条件こそが、「気持ちの強さ」だった。それが足りていないのなら、接戦での成功と失敗を繰り返しながら乗り越えていくしかないだろう。
そうした苦い経験も経て、島内颯太郞投手(24)がいまにも殻を破ろうとしている。
鈴木誠也からのアドバイスを胸に…
150キロ台中盤を誇る直球とフォークを武器に高い奪三振率を誇る。しかし、接戦では勝負強さを欠き、勝ち継投をつかむ一歩手前で足踏みが続いてきた。
大卒1年目だった2019年のこと。即戦力右腕として期待されながらも、プロの重圧から腕を思い切り振れずに制球を乱す場面が目立った。
そんな姿を心配したのは、2学年先輩の鈴木誠也だった。シーズン終盤、雑談の中でアドバイスされた。
「極端な話だけど“思い切り投げてダメだったら野球をやめるしかない”ぐらい割り切ってやってみたらどう?俺もそれぐらいの気持ちでやってきたよ。どっちにしろ人生の中で野球をやっている時間なんて短いんだから」
鈴木誠は高卒1年目で一軍デビューを果たし、同4年目には129試合に出場して規定打席に初到達。一見、順風満帆な成長曲線を描きながら、絶対的な定位置をつかむまでには相当な覚悟があったと言う。
島内は「誠也さんのようなレベルの選手でも、そこまで想像して取り組んでいたとは思いませんでした。僕は一軍の緊張感から縮こまっていたのかもしれない」と、気持ちを入れ替えるきっかけとなった。
また、鈴木誠からは「思い切って腕を振れば、島内みたいなタイプならど真ん中にいっても大丈夫。抜けた変化球でも対応できないから、腕を振るだけで全然違う」とも伝えられた。当時から鈴木誠も島内の潜在能力を認めて期待してきたのだった。
確固たる自信を掴めるか
そして迎えた今季最終盤、勝ち継投入りまではつかめていないものの、徐々に重要な局面を任される試合が増えてきた。再び2年前の鈴木誠の助言を生かして、重圧をはねのける絶好のアピール機会が訪れているのだ。
8月31日のDeNA戦では、2点優勢の7回に3失点して今季初黒星を喫した。それ以降は、9月26日のDeNA戦で失点するまで10試合連続無失点。一度失点しても自分の投球を見失わないところに、これまでにはなかった逞しさが見える。
今季から同僚となった栗林良吏は同学年。昨オフには「僕は1年目に“プロはこんなに違うのか…”と実感した。一軍のマウンドでしか分からないことがある。プロでの2年間の経験を無駄にしないためにも(栗林には)負けたくない」と対抗心を燃やしていた。新人ながら立派に抑えをこなす栗林の精神力にも刺激を受けているに違いない。
今季はチェンジアップの精度が上がったことで制球力が安定してきた。こうした技術面の進化も、土壇場での気持ちの強さを支えている。
心身ともに成長していることは間違いない。あとは結果を残し続けて立ち位置を確立するだけだ。
最後の最後に勝ち継投に割って入ることができれば、島内に欠けていた自信を手にして今季を終えることができる。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)