第5回:セ界の首位打者争い
セ・リーグの首位打者レースは史上稀に見るデッドヒートを展開している。
29日終了時点(以下同じ)でトップに立つ鈴木誠也選手(広島)の打率が「.317」に対して、2位の桑原将志選手(DeNA)が「.316」、同僚のタイラー・オースティン選手が「.315」と1厘差ずつで続く。目下、4位につける近本光司選手(阪神)でも「.313」で、鈴木とは4厘差だから、誰が最終ゴールに飛び込んでもおかしくない。
本塁打や打点は一度残した数字は減らない。これに対して打率は日々変動するから、選手にとっても気の休まる時がない。
ちなみに7月14日、オールスター前の前半戦終了時のバットマンレースを見ると、打率トップは佐野恵太選手(DeNA)で、以下ゼラス・ウィーラー選手(巨人)、桑原、オースティン、鈴木誠の名が挙がる。近本は2割9分台で11位に位置していた。それが約1カ月の五輪ブレークをはさんで、後半戦に突入すると落ちていく者と上り調子の者が入れ替わり、現在の大混戦を生んだ。
4選手によるデットヒート!?
9月直近の10試合だけを見ても、トップはオースティン、桑原、鈴木誠と目まぐるしく入れ替わっている。ものすごい様相を呈したのは22日のことだ。
1位 .31549 鈴木誠也(広島)
2位 .31547 オースティン(DeNA)
3位 .3152 桑原将志(DeNA)
4位 .314 近本光司(阪神)
わずか、2厘もない中に4人がひしめいた。鈴木誠が「3割1分5厘4毛9糸」に対して、オースティンは「3割1分5厘4毛7糸」。文字通り「毛」でも差がつかず、「糸」の細さほどで優劣がついている。
同じ打数と安打数ならこんな事態は起こらない。だが、個々によって試合出場数も打数も安打数も違う。鈴木誠の出場試合数は111。オースティンは102ともっと少ない。コロナの影響で欠場したり、来日が遅れたのが原因だ。桑原は117試合に出場、近本は122試合と「4強」の中で最も多い。
さらに、主に1番を打つ桑原や近本は打席が回って来る回数が多いから、ヒットを量産するチャンスも多いが、逆に無安打に終われば打率も下がる。わかりやすく説明すれば、5打数1安打は打率2割だが、主軸の鈴木やオースティンが4打数1安打なら2割5分。今月に入って桑原は99打数33安打で打率.333、近本は94打数31安打で同.330だが、鈴木誠は80打数30安打で.375。敬遠に近い四球も増えている中で数少ないチャンスに安打を量産していることがわかる。
話は横道にそれるが、近本は盗塁王争いでもデッドヒートを繰り広げている。現在23盗塁の近本を1差リードしているのがチームメイトの中野拓夢選手である。打順も1番と2番打者。早く追いつき、追い越したいところだが、チームは優勝争いの正念場、個人プレーに走るわけにもいかない。虎党にとっては矢野燿大監督の胴上げと2人揃ってのダブル盗塁王といきたいところだが、結末はどうなるか?
日々変動するレースの結末はいかに?!
さて、過去にも激しい首位打者争いの歴史がある。シーズンが終了しても決着がつかず同時首位打者となった例は2度。
1969年のパ・リーグでは張本勲(東映)と永淵洋三(近鉄)。セ・リーグでは1987年に篠塚利夫(巨人)と正田耕三(広島)が相譲らず、2例共に「.333」の高打率でタイトルを分け合っている。
遺恨に発展したのは1982年の長崎啓二(大洋)と田尾安志(中日)のデッドヒートだ。
10月18日、両チームは最終カードで激突するが、1厘差リードする長崎は欠場。ゲームでは田尾が5打席連続敬遠されて決着がついた。不服とする中日サイドは後日、連盟に対して「敗退行為にあたる」と抗議するが却下されている。
打席ごとに一喜一憂するのが首位打者争い。マラソンに例えるなら競技場に近づいてのラストスパート。この団子状態では最後まで「毛・糸の戦い」が続いてもおかしくない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)