防御率は驚異の「0.38」
10月12日、広島が今季最長タイの6連勝を飾った。
勝利の瞬間、マウンドに立っていたのは、もちろんクローザーの栗林良吏だ。
3点リードの9回に登板した栗林は、先頭の佐野恵太(DeNA)に四球を与えたものの、牧秀悟、宮﨑敏郎、ソトと続く打線をしっかり抑えて今季32セーブ目をマーク。1990年に与田剛(中日)が記録した31セーブを上回り、新人歴代2位の数字を残すとともに、1991年に大野豊(広島)が記録した14試合連続セーブの球団記録を15試合に更新した。
今季、新人ながらクローザーを任された栗林は、開幕から22試合連続で無失点登板を続け、大きな話題を呼んだ。その記録が途切れたのは、1失点(自責1)で負け投手となった6月13日の対オリックス戦。また、セーブはマークしたものの6月19日の対DeNA戦でも1失点(自責1)を喫し、開幕から長く「0.00」だった防御率は、その時点で「0.70」となった。
しかし、その後は再び無失点登板を継続。じわじわと向上していた防御率は、前回登板で「0.40」を切って「0.39」となり、現在は「0.38」。シーズン最終盤の数字としては、にわかには信じられない域のもの。事実、栗林の成績はすでにレジェンド級のクローザーやセットアッパーと肩を並べつつある。
奪三振率で佐々木と藤川を、防御率で浅尾をしのぐ
野球ファンが相手クローザーを評する言葉に、絶対に逆転できない、登板した時点で敗戦が確定することを意味して「絶望感がある」というものがある。近年の球界において「絶望感があるクローザー」というと、佐々木主浩(元大洋他)、藤川球児(元阪神他)、岩瀬仁紀(元中日)らが、その代表格となるだろう。
また、「絶望感がある」という意味では、クローザーではなかったものの、最優秀中継ぎ投手のタイトルを持つ投手のなかで歴代トップの数字を残した浅尾拓也(元中日)も挙げられるだろう。ここで、彼ら4人のキャリアハイの数字と今季の栗林の数字を比較してみる。
<登板数/失点数>
98年:佐々木(横浜)51試合(56回)/7失点(自責4)
06年:岩 瀬(中日)56試合(55回1/3)/8失点(自責8)
08年:藤 川(阪神)63試合(67回2/3)/6失点(自責5)
11年:浅 尾(中日)79試合(87回1/3)/5失点(自責4)
21年:栗 林(広島)48試合(47回1/3)/2失点(自責2)
<勝敗・ホールド・セーブ>
98年:佐々木(横浜)1勝1敗45セーブ
06年:岩 瀬(中日)2勝2敗5ホールド 40セーブ
08年:藤 川(阪神)8勝1敗5ホールド 38セーブ
11年:浅 尾(中日)7勝2敗45ホールド 10セーブ
21年:栗 林(広島)0勝1敗32セーブ
<防御率>
98年:佐々木(横浜)防御率0.64
06年:岩 瀬(中日)防御率1.30
08年:藤 川(阪神)防御率0.67
11年:浅 尾(中日)防御率0.41
21年:栗 林(広島)防御率0.38
<奪三振数(奪三振率)>
98年:佐々木(横浜)78奪三振(奪三振率12.53)
06年:岩 瀬(中日)44奪三振(奪三振率7.07)
08年:藤 川(阪神)90奪三振(奪三振率11.74)
11年:浅 尾(中日)100奪三振(奪三振率10.23)
21年:栗 林(広島)72奪三振(奪三振率13.69)
さすがにいずれもとんでもない成績である。栗林は登板数や投球回でやや劣るが、まだシーズン終了前であること、新人の栗林に対して今季途中から登板をセーブシチュエーションのみに限定していることを思えば当然の数字だ。今後、栗林がクローザーを務め続けるのならば、これらの数字も伸びていくだろう。
そして、その他の栗林の数字を見れば、まさに圧巻だ。いずれも高い奪三振率で知られた佐々木と藤川を、その奪三振率で上回る。また、「0.38」という防御率は、投球回数に大きな差があるものの、ファンのあいだで伝説的な数字と知られる浅尾の「0.41」をしのぐ。
もちろん、先発投手と比べて投球回が少ないクローザーであるため、少しの失点で防御率が跳ね上がることにもなる。しかし、ここまでの数字を見るだけでも、栗林はプロ1年目にして歴代級のクローザー、セットアッパーと、なんら遜色がないどころか、それを上回るような投手になりつつあると言えるだろう。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)