第3回:エンゼルス改革の旗手
ロサンゼルス・エンゼルスの地元紙である『オレンジ・カウンティ・レジスター』は現地時間10月20日(日本時間21日/以下同)、同球団がスカウティングディレクターのマット・スワンソン氏を解雇することが決まったと報道。
5年前から現職に就任して育成システムの改善に努めてきた同氏だが、MLBがこの夏に発表したメジャー各球団の育成ランキングを見ると、エンゼルスは全30球団中24位という低評価。来季のさらなる強化に迫られるペリー・ミナシアンGMにとっても、チーム再建に本腰を入れていくことを示すという意味で、スカウト組織の再編が急務だったということだ。
エンゼルスのチーム改革にとって、大きな衝撃を与えたのが大谷が9月26日に発した以下の言葉である。
「ヒリヒリする9月(優勝争いからポストシーズン)を迎えたい」「ファンの人も好きだし、球場の雰囲気も好き。ただ、それ以上に勝ちたいという気持ちが強いし、プレーヤーとしてはそれの方が正しいんじゃないかと思います」
日頃は優等生的な発言の多い大谷がめずらしく口にした“本音”に、周囲は大騒ぎとなった。
「大谷は他球団に移籍する」と報じるマスコミも…
今回のフロント人事についても、「大谷発言」が影響しているのでは…?と推測するムキもある。
77勝85敗でア・リーグ西地区の4位に沈んだチームは、現在まで6年連続の負け越しを喫している。
同じ西海岸に本拠地を置く強豪のアストロズやドジャースと比べると戦力バランスは悪く、このままではなかなか浮上も望めない。
MLBでは10月からポストシーズンに入り、地区シリーズからリーグ優勝決定シリーズ、そしてワールドシリーズへとつながる“頂上決戦”が大いに盛り上がる。大谷でなくても、この熱狂の輪に身を投じたいというのは選手としての偽らざる本音だろう。
球団にとって、投手陣強化のための補強はこのオフの絶対条件となるが、そこに二刀流のスーパースター・大谷翔平の契約問題が新たに加わったのだから悩ましい。
投手としてチームの勝ち頭となる9勝を挙げ、打者としては46本塁打に100打点。そこにベーブ・ルース以来という“二刀流”の付加価値も加わる。
今年1月、球団は大谷と2021年~2022年の2年総額850万ドル(約9億4000万円)という契約を結んでいる。1年目の今季は300万ドル、2年目の来季が550万ドルというのが推定年俸だ。
思えばこの契約時すら、「過去に前例がない」ということから調停寸前までもつれ込んだ。しかし、1年経った今では投手としても、野手としてもメジャーの中でも特上クラス。今度は新契約を結ぶ際の金額さえ想像のつかない事態となっている。
しかも、来季以降の新たな契約を今オフに結ばなければ、他球団が大谷の獲得に名乗りをあげてくることは間違いなく、さらに金額は跳ね上がることだろう。球団にとって、大谷との契約をまとめることが“最優先事項”であることもうなずける。
大谷の“適正価格”とは…?
では、どのあたりが「落としどころ」になるのか…?
アメリカの大手スポーツ専門局であるESPNが球団関係者への取材を基にはじき出した数字が、「5年総額2億5000万ドル」というもの。日本円にして約276億円、年換算して約55億円となる。
また、とあるMLBの事情通は、過去のMVP受賞者らを参考にしながら、大谷もMVPを獲得すれば「8年総額3億2000万ドル」。 こちらは年俸換算で44億円と弾き出している。
ちなみに、チームの同僚で過去にMVPを2度受賞しているマイク・トラウト選手の年俸が約41億円。現役メジャーリーガーの中でも群を抜く超一流選手を比較対象としているが、大谷の場合は“二刀流”という他にない付加価値をどう計算すべきか、というのが焦点だ。
当然、長期契約となれば、二刀流ゆえの故障のリスクというのもついて回る。適正価格の答えは誰も出すことができない、というのが実情だろう。
「どんな選手とプレーできるのかな」
エンゼルスはこの夏、チームの枠を超えて球界のレジェンドと言っても過言ではないアルバート・プホルスをドジャースに放出した。
さらに今オフで契約の切れるジャスティン・アップトンら主力選手の放出も検討されているとのことで、高年俸のベテランを切って少しでも「大谷資金」を確保しようと言うわけだ。
また、チームを率いるジョー・マッドン監督は来季の浮上に向けて、「先発を任せられる要員が(大谷以外に)2人は欲しい」と球団に要望している。10勝クラスの先発投手を獲得するためには、ここでも大金が必要となる。
チームが生まれ変わって世界一を獲りに行くためには、大谷の超人的な活躍だけではまだ足りない。旧態依然の体質で終われば、近い将来に大谷の移籍というのも現実味を帯びてくることだろう。
「色々な補強があると思うんですけど、来年、どんな選手とプレーできるのかなというのも楽しみにしています」
これは今月3日に行われた今季を総括する会見で、大谷が語った言葉。チーム残留を前提にした穏やかな口調だが、中身は大きな改革を望んでいることも見て取れる。
未来志向と情熱。大谷の意思は球団を変えることができるだろうか…?
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)