2021.11.20 18:00 | ||||
オリックス・バファローズ | 4 | 終了 | 3 | 東京ヤクルトスワローズ |
京セラD大阪 |
白球つれづれ2021~第46回・新たな潮流
日本シリーズが20日から開幕する。
ヤクルト、オリックス共に前年の最下位チームで、どちらが勝っても「下剋上」が完成するドラマチックな展開だ。
ヤクルトの高津臣吾監督は就任2年目。対するオリックスの中嶋聡監督は昨年途中から一軍の監督代行を務めたが、実質は今季が初采配となる。2人の共通点は前任が二軍監督であったこと。共に「育成と勝利」を見事に成し遂げた点にある。
日本シリーズに進出した監督は2000年以降で調べると、昨年まで延べ42チームで21人の指揮官が日本一に挑んでいる。この中で外国人監督を除いた19人のうち、二軍監督経験者は若松勉、岡田彰布、梨田昌孝、真中満、渡辺久信氏の5人。
若松、真中監督はヤクルトで、岡田監督は阪神で日本シリーズの指揮を執ったが、オリックス時代に二軍監督を務めている。近鉄と日本ハムで栄光に導いた梨田監督もオリックスと併合になった近鉄出身。そして今季は高津vs.中嶋監督の対決である。両チームの二軍監督経験者がシリーズに駒を進めているのは興味深い。
これまでの球界はスター選手が監督に就任する例が圧倒的だった。巨人を例にとれば長嶋茂雄、王貞治、原辰徳と、歴代の4番が名を連ねる。近年、圧倒的な強さを誇ったソフトバンクも王の後は秋山幸二、工藤公康とビッグネームが後を継いだ。球団の顔であり、営業的にもスター監督が重宝されてきたからである。
しかし、近年は各球団にゼネラルマネージャー(GM)を置くケースが多くなり、中長期的なチーム作りに腐心するようになる。そこで若手育成に心血を注ぐ二軍監督への認識が再評価されたのだろう。すでにDeNAは三浦大輔、ソフトバンクは来季から藤本博史新監督が二軍指導者から昇格するなど、球界の新たな潮流になりつつある。
育成と勝利の両立
高津、中嶋両監督は苦労人でもある。ヤクルトの守護神として活躍した高津監督はその後、メジャー挑戦から韓国、台湾野球を渡り歩き、国内に戻っても独立リーグで投手兼指導者の道を歩んでいる。一方の中島監督も阪急、オリックスの正捕手から晩年は西武、横浜(現DeNA)、日本ハムと移籍を繰り返した。
こうした経験が指導者になって生きる。幅広い視野と辛抱強い用兵は若手の発掘につながりヤクルトでは塩見泰隆、高橋奎二、清水昇選手らが主力選手に成長、いずれも二軍監督時代の教え子たちだ。さらに昨年入団した奥川恭伸投手を1年間、ファームで育成期間に充てて今季の開花につなげたのも、高津流の会心作と言えるだろう。
中嶋オリックスも若手育成では負けていない。昨年までの5年間で9本塁打の杉本裕太郎選手が今季は一軍の4番で本塁打王に輝く。高卒プロ2年目の宮城大弥、紅林弘太郎選手が主力級の働きを見せる。二軍暮らしが長く続いた宗佑磨や山﨑颯一郎選手ら「中嶋チルドレン」が次々に出て来る。
二軍監督時代に共に汗を流し、性格から将来性も見抜いているから大抜擢にも躊躇がない。彼らが一軍の壁を突き破れば、新たな競争が生まれてチーム全体が強化される。これこそが育成の勝利である。
名将の影
二人の将には名将の影も色濃く残っている。
高津監督の恩師は野村克也元監督だ。「ID野球」を掲げ、緻密でスキのない戦法を編み出した。時に指導は人間教育にまで及び、ミーティングでの言葉は「野村ノート」として影響を与え、高津監督は今でも重要な局面を迎えると同ノートを読み返すという。
中嶋監督の采配を、ある球団関係者は「仰木さんに似ている」と語る。近鉄、オリックスで名将と謳われた仰木彬元監督は、データに加え、大胆なひらめきも駆使した勝負師だった。
クライマックスのファイナルステージ。対ロッテ第3戦で勝負を決めたのは最終回に安達了一、小田裕也選手が立て続けに決めたバスター安打だった。セオリーなら絶対送りバントのケースで、敵を欺く仰天戦術は、まさに仰木監督譲りの真骨頂だった。
弱体と言われた投手陣を見事に再生した高津ヤクルトと、不安のあった攻撃力を見違えるばかりに強化した中嶋オリックス。前年最下位の弱小軍団を日本一の舞台まで押し上げたのだから、共に賞賛に値する。しかし、最後に残された頂点獲りの切符は一枚。結末はいかに? 今年の晩秋はいつになく、熱い。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)