「優勝を目指す。そこのところはブレずに」
決断いかんでは、チームにとって大きな痛手となりかねない虎の正妻の去就が定まった。
3日、梅野隆太郎が今年5月に取得した国内フリーエージェント権を行使せず、タイガースに残留することを表明。捕手という過酷なポジションで手にした大切で価値ある権利だけに、他球団の評価を聞きたい思いも胸に秘めながら、熟考してきた。
申請期限が4日後に迫っていた中で下した結論を、「時間はかかってしまった」と振り返る。
野球人生で初めて訪れた大きな分岐点だけに、当然の“長期戦”。心は揺らいだはずだが、ブレなかったものもある。
本人の言葉からにじんだのは、今季あと一歩のところで手が届かなかった優勝への「渇望」と若きチームへの「希望」だ。
「やっぱり今のこの選手たちとてっぺんを目指して、優勝を目指す。そこのところはブレずに」
タイガースでやり残したことだろう。今季も自己最多の125試合で先発マスクを被って投手陣をけん引。そこにチームの成績もしっかりと付いてきた。
「中心で引っ張っていきたい」
開幕からリーグ首位を快走。前半戦だけで勝ち越しは20を越えた。
そんな“イケイケ”の状態の中でも、日本人のレギュラーでは最年長になった背番号2は、「勢いだけでは絶対に厳しくなると思うので。そこにつけ込んでくるチームもある」と、簡単にいかないことも覚悟していた。
シーズン最終盤は、春先の自軍と重なるような快進撃で猛追してきたスワローズとの一騎打ち。だが、梅野はそのしびれる戦いの最前線に立つことができなかった。
10月10日を最後に、ラスト11試合は坂本誠志郎が先発マスクを被り、ベンチスタート。「準備だけは怠らないように」と途中出場、代打と試合前から最善の準備をしてきたが、勝率5厘差でのV逸…。グラウンドで力を発揮できないもどかしさが残った。
「(今季は)個人的には終盤で出場機会が減ったんですけど、良い意味では(チームとして)ここまでやれると感じたし、悔しさもそれ以上に。(個人としても)戦い抜けなかった悔しさもそれ以上にある。それは今後の糧として、はね返していくのが自分の立ち位置だと思うので」
リーグ優勝を逃し、ポストシーズンでも敗退した事実だけを見れば悲観的でも、梅野の目にはすべてがそう映ってはいない。
「全部が全部悪かったわけじゃないし、8年目で最後の1試合まで分からないような優勝争いをしたのは初めてですし、悔しくもあり、中身の濃い一年だった」
ベテラン勢が去り、新世代に突入したチームが、失敗も経験しながら成長していく様を間近で見てきたのは他ならぬ梅野だった。だからこそ、残留を決めた後にも力を込めて言った。
「若いチームで、絶対にこれからもっと強くなっていく。その中心で引っ張っていきたい」
タテジマのユニホームを着て、来季も甲子園のグラウンドに立つ。渇望と希望の先に、まだ見ぬ頂点の景色が待っている。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)