意外にも?初優勝
11月20日(土)から11月25日(木)まで開催された秋の大一番『第52回 明治神宮野球大会』。
今年は日本シリーズと開催時期が重なったため、セ・リーグ王者のヤクルトが東京ドームで日本シリーズのホームゲームを戦ったことも話題になった。
高校の部は、大阪桐蔭が初優勝を飾った。
春夏合わせて8度の甲子園優勝を果たしている“高校球界の横綱”だけに、明治神宮大会は「初優勝」と聞いて驚いたファンも多いのではないだろうか。
新たな歴史を刻んだ大阪桐蔭だが、振り返ってみると、この1年は苦戦の連続だった。
今年の3年生は、2017年の春夏連覇を見て入学してきた世代。投手は松浦慶斗(日本ハム7位)と関戸康介という最速150キロ超えの本格派投手を揃え、野手にも池田陵真(オリックス5位)や花田旭など、力のある選手が多かった。
それにも関わらず、春は初戦で智弁学園に敗れると、夏も2回戦で近江に競り負け、甲子園でわずか1勝に終わった。昨年から今年にかけてのコロナ禍で、思うように対外試合が組めなかったという影響はあるかもしれないが、前評判が高かっただけに、この結果は予想外だった。
「切れ目のない打線」
しかし、このままズルズルと低迷しないところが大阪桐蔭の凄さである。
新チームとなった秋は、大阪大会を順当に勝ち上がると、続く近畿大会でも4試合で31得点/2失点という圧倒的な数字で優勝。そして明治神宮大会でも、全国の強豪を相手に見事な戦いを見せた。
今年のチームの最大の特長は、「切れ目のない打線」だ。
その中心は、旧チームから唯一のレギュラーである3番の松尾汐恩(2年/捕手)。決勝の広陵戦では、2本の本塁打を含む4安打・4打点の大活躍。強打の捕手として、その能力を存分に発揮した。
体つきは捕手にしては細身で、少しバットを引く動きが大きいのは気になるものの、巧みなリストワークできれいに内角のボールをさばくことができ、長打力も十分だ。特に鋭く引っ張った時のライナーの伸びは目を見張るものがある。
本格的に捕手に転向したのは高校1年の秋から。キャッチングやブロッキングには少し課題が残るものの、素早いフットワークを生かしたスローイングは超高校級。来春の選抜でも、ドラフト候補として注目を集めることは間違いない。
ほかにも、1番を打つ伊藤櫂人(2年/三塁手)や、松尾の後ろを打つ海老根優大(2年/外野手)と丸山一喜(2年/一塁手)も、注目の強打者だ。
伊藤は無駄な動きのないシャープなスイングが光る強打のトップバッター。準決勝の九州国際大付戦では試合を決定づける2ランも放ち、長打力があるところを見せた。
海老根は中学時代から評判の右の大砲候補。初戦の敦賀気比戦では打った瞬間に分かる3ランをレフトスタンド中段へ叩き込み、決勝戦でも3安打をマークしている。少しコントロールは課題だが、センターから見せる強肩も魅力だ。
丸山はたくましい体格とパワーが光る左の強打者。タイミングをとる動きが小さく、引っ張るだけでなく左方向へも強烈な当たりを放つ。
6番以下の下位打線に関しても、彼らほどではないもののスイングには力強さがあり、甘く入ったボールは長打にできる。相手バッテリーからすると、ロースコアに抑え込むのは非常に困難な打線であることは間違いない。
エース格の前田悠伍は1年生とは思えない
投手陣では、背番号14ながらエース格へと成長した前田悠伍(1年)の存在が大きい。
ゆったりと下半身を使いながら、躍動感とメリハリのあるフォームでバランスがよく腕を振ることができており、140キロ台のストレートと多彩な変化球を操るピッチングはとても1年生とは思えない。
初戦の敦賀気比戦では、リリーフで6回を投げて被安打2、10奪三振で無失点と圧巻の内容で全国デビュー。ひとつひとつのボールもさることながら、相手打者を観察しながら投げることができる投球術は、教えてもなかなかできるものではない。このままストレートが順調にスピードアップしていけば、再来年は上位候補となる可能性が高いだろう。
ここまでの内容では、圧倒的な強さがあるように感じるかもしれない。しかし、もちろんチームとしての課題もある。
まず大きいのは、前田に次ぐ投手陣の不安定さだ。神宮大会では前田以外に別所孝亮、川原嗣貴、川井泰志、藤田和也という2年生が登板したが、いずれも内容は芳しいものではなかった。
前田も3試合目の登板となった決勝戦では本調子ではなかっただけに、2本目、3本目の柱の確立というのは、この冬の大きなテーマだ。
もう一つは守備・走塁などの細かいプレーの精度。今大会でも、松尾のパスボールや伊藤のエラーなど、守備のミスが目立ち、攻撃面ではバント失敗や進塁できる場面を逃すなど、細かな部分で気になったプレーがあった。
まだ秋の段階なので、チームの完成度は低くても当然かもしれないが、以前の大阪桐蔭と比べると隙が目立つ。選抜までにどこまで細かいプレーを鍛えられるかが重要になるだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所