白球つれづれ2022~第1回・覇権奪回へ始動
常勝軍団から一転、昨年はBクラスまで転落したソフトバンクが、復活を狙う。
工藤公康監督からバトンを託された藤本博史監督は、これまで主に二軍や三軍の指揮官を務めてきたが、新人時代の柳田悠岐選手を猛練習で日本一の強打者に育て上げるなど実績は十分。熱血の人でもある。
今年から新監督に就任したのは藤本と日本ハム・新庄剛志、中日・立浪和義の3人。中でもオフの話題は「BIG BOSS」新庄監督がユニークな言動と派手なパフォーマンスで独占した。
だが、「最初から優勝なんて狙いません」と言う新庄節に真っ先に噛み付いたのはソフトバンクの総帥である孫正義オーナーである。
「ウチは優勝を狙いますよ」。こちらのビッグボスは藤本監督にペナント奪還を厳命した。それがこのチームと監督の宿命だ。
屈辱の1年を経て、フロントはチーム再建に激しく動いた。
例年に比べて動きの少なかったFA戦線では中日の又吉克樹投手を獲得。新外国人では遊撃を守るフレディ・ガルビス選手(フィリーズ)と2年契約。メジャーで打率.246、本塁打109本の実績を残すガルビスは本来なら、米国内で引く手あまたの選手だった。ところがMLBは経営者と選手会の労使紛争で12月からロックアウト。中堅クラスのFA選手の去就は長期化するケースが予想され、年俸も安く買い叩かれることが多いから日本行きを決断したと言われる。チームでは不動のレギュラーだった今宮健太選手が近年、故障が多く、成績不振が続いている。そこに大物助っ人加入なら願ったり叶ったり、だろう。
昨年、9勝をマークしたニック・マルティネス投手の退団は痛手だが、すぐさま昨季途中まで在籍後、家庭の事情で退団していたコリン・レイ投手と再契約を結んだ。一方では長谷川勇也選手は現役引退、38歳の川島慶三選手も戦力外通告(その後、楽天に移籍)、又吉の人的補償として岩嵜翔投手を放出するなど激しい人事が断行されている。
もう一つの衝撃は年俸問題だ。チームの顔でもある松田宣浩選手は4億5000万円の年俸から3億円減でサイン。今宮同様に近年は打撃不振から出場試合を減らしていることは確かだが、功労者への扱いとしては異例の冷遇ぶりだ。逆に今季4勝止まりの武田翔太投手は6000万円増の1億5000万円で4年契約、大黒柱の千賀滉大投手も故障で戦列を離れながら2億円増の6億円でサインしている。武田は今オフに国内FA権を取得、千賀も今年中に海外FA権を取得予定でメジャーへの挑戦を希望している。何としても流失を防ぎたい球団側の苦慮が垣間見える。
新時代構築への一歩となるか
昨季のソフトバンクは誤算が相次ぎ、失速した。
中でも投打の主軸に故障やアクシデントが相次ぎ、工藤監督でも手の打ちようがない惨状を呈することになる。
千賀は左足捻挫で長期離脱、守護神の森唯斗投手は左肘痛で登録抹消、中継ぎエース格のリバン・モイネロ投手もシーズン終盤に家庭の事情で緊急帰国する。
打者陣では四番として計算するジュリスベル・グラシアル選手が右手指の骨折などでシーズンの大半を棒に振ってしまう。前年の盗塁王・周東佑京選手も故障で戦列離脱して機動力野球が封じられる。もしもの時の保険?で獲得したウラディミール・バレンティン選手や、かつてのMVP男であるデニス・サファテ投手らもまったく戦力にならず、2人合わせて10億円のサラリーが紙くず同然となった。
チームの病巣は歴然だ。
強力なレギュラー陣が固定され、気が付けば高齢化が進んだ。あり余る外国人戦力もいるため若手選手の台頭が難しい。12球団一と言われる二、三軍システムを誇っても、これでは下から突き上げるパワーになりにくい。
昨年、松田に代わって三塁の座をつかみかけているリチャード選手には王貞治球団会長が直々に打撃指導を行い、本塁打40発指令が出された。今宮に代わって新外国人、ガルビスとの三遊間が誕生すれば打線の厚みは増す。投手陣では板東湧梧、泉圭輔、杉山一樹らにさらなる成長が期待される。新旧交代が加速されれば、王国再建の第一歩となる。
藤本監督起用の意図を「二軍や三軍で若手を鍛え、選手を良く知っているから」と王会長は説明する。ともすれば重厚で巨大な戦力は小回りの利かない弱点も内包していた。不振に終わったベテランたちの奮起も必要だ。そこに、ファームも含めた新風を吹き込むことこそが今年の狙いであり、チームの成否のカギを握っている。
昨年は前年最下位のオリックスが覇権を握った。今年もパリーグは1位から6位まで戦力が拮抗して、どこがのし上がってきてもおかしくない。
新装開店の藤本ホークスがチームをどう立て直して来るか?ズルズルと後退するわけにはいかない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)