控え内野手がゼロ…意地を見せた西武
プロ野球・2021年シーズンの大きな特徴といえば、「9回打ち切り」というポイントがひとつ挙げられる。
新型コロナウイルス感染拡大による影響で、延長なしの9回打ち切りという特別ルールが設けられた結果、セ・パ両リーグで引き分けが102試合もあった。
戦うイニングが少なくなったことに加え、ゴールが見えているため、同点でも勝利の方程式を惜しげもなくつぎ込めるというところも引き分けの数を増やした要因だったと言える。
そんな“異例”な戦いを終えて、今回は「記憶に残る引き分け試合」に注目。
2021年のいつもとは違う状況や経過のなかで、最終的に引き分けとなった印象深いゲームを3つ紹介する。
コロナ禍の影響で、ベンチ入りわずか19人で試合に臨むことを余儀なくされたのが西武だ。
5月27日の広島戦を前に、源田壮亮がPCR検査で陽性の判定。さらに濃厚接触者の疑いでこの日の予告先発だったザック・ニールら計7名がベンチから外れることとなり、投手9人・野手10人の19人で試合に挑むことになった。
交流戦のビジターゲームで指名打者制度がなかったため、先発野手が8人でよかったのは不幸中の幸いだが、それでも控え野手は捕手の岡田雅利と外野手の鈴木将平の2人だけ。内野手はゼロだった。
そんなハンデを背負いながら、西武は初回に山川穂高の適時打などで3点を選手。2回にもルーキー・若林楽人のソロで4-0とリードを拡げる。
ニールの代役として急きょ先発を任されたマット・ダーモディも、8本の安打を許しながら5回を1失点に抑える力投。主導権を握って試合を進めていた。
ところが、4-1で迎えた6回に失策絡みで失点を喫し、たちまち1点差。小刻み継投で逃げ切りを図るも、7回に5番手の森脇亮介が坂倉将吾に同点の犠飛を許し、そのまま4-4で試合終了。
序盤の4点を守り切れなかった辻発彦監督は、「外野は栗山(巧)もスパンジー(コーリー・スパンジェンバーグ)も代えられないし、代打も送れない。今日は苦しかったですね」と駒不足で四苦八苦の一戦を振り返ったが、負けを阻止したのはせめてもの意地。
「いるもんで1試合1試合を必死に戦っていきます。それしかないです」と不退転の覚悟を示した。
「コリジョン」でまさかの同点劇
間一髪で逃げ切りセーフと思われた直後、まさかのどんでん返しで引き分ける羽目になったのが中日だ。
6月2日のロッテ戦。2-0とリードした中日は、9回から又吉克樹がマウンドに上がり、先頭の荻野貴司を三振に打ち取り、勝利まで「あと2人」となる。
だが、3試合にまたがり19イニング連続無得点のロッテ打線も、最後の意地を見せる。一死からレオニス・マーティン、中村奨吾の連打を足場に二死二・三塁とチャンスを広げた。
そして、角中勝也も又吉の148キロ直球を痛烈なピッチャー返しで中前に弾き返す。三塁走者・和田康士朗(マーティンの代走)に続き、二塁走者・中村も執念の本塁へのヘッドスライディングで一挙同点を狙う。
しかし、大島洋平の好返球でクロスプレーとなり、判定は「アウト!」。3アウトになり、中日が2-1で勝利した…否、勝利したはずだった。
ところが直後、ロッテ・井口資仁監督が木下拓哉のブロックを「球がそれたとはいえ、危ないプレー」とリクエスト。審判団も協議の末、危険なプレーと見なし、コリジョンルールにより2点目が認められた。
土壇場で同点に追いついたロッテはその裏、守護神・益田直也が三者凡退に抑え、2-2の引き分けでゲームセット。目前で勝利を逃す羽目になった中日・与田剛監督は「あれを故意にブロックしたという判断は、解釈の違いがあるかもしれない。ジャッジメントなので受け入れざるを得ない」と苦渋の表情だった。
「史上初の快挙」でも試合に勝てなかった
史上最多の6投手継投によるノーヒットノーランを達成したのに、勝利の女神にそっぽを向かれてしまったのがソフトバンクだ。
8月15日の日本ハム戦。ソフトバンクは来日3年目で初先発となったカーター・スチュワートが、最速157キロの速球にキレの良い変化球を織り交ぜ、5回を無安打の9奪三振。初回に先頭の浅間大基に死球を与えた以外は、走者を許さない。工藤公康監督も「想像以上の好投」と目を見張った。
好投したのはスチュワートだけではない。6回からリリーフした津森宥紀も、中島卓也を三振、清水優心を左飛に打ち取り、二死からマウンドを引き継いだ嘉弥真新也も浅間に四球を許したものの、西川遥輝を一飛に打ち取り、依然としてノーヒットノーランを継続。
さらに7回は松本裕樹、8回は板東湧梧がいずれも安打を許さず、ノーヒットノーランまであと3人。最終回は前年12月の右肘手術を経て、2年ぶりのマウンドに上がった6番手・甲斐野央が自己最速タイの159キロをマークするなど、浅間を二ゴロ、西川と高濱祐仁を連続三振に切って取り、気迫の三者凡退で27個のアウトを奪取した。
この瞬間、2017年6月14日の巨人(ソフトバンク戦)以来、プロ野球史上5度目の継投によるノーヒットノーラン達成。投手6人継投での達成は、2006年4月15日の日本ハムの3人を抜いて、プロ野球史上初の快挙だった。
しかし、ソフトバンク打線も8回まで日本ハムの4投手に散発の3安打に抑えられ、8回一死三塁もスクイズ失敗と、初回からゼロ行進。サヨナラ勝ちで快記録に花を添えたかった9回裏も、5番手・杉浦稔大の前に今宮健太と長谷川勇也が連続三振。中村晃も右飛に倒れ、0-0の引き分けに終わった。
試合後、工藤監督は「(無安打だけに勝ちたかった気持ちは)ありますけど、相手も一生懸命投げて、何とか打たさないように投げている。こういうゲームになりがちだと思う。1点を取るというのも力が入るし、うまくいかないときもある。そこはプラスに考えて、次にもつながると思います」と結果を素直に受け止めていた。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)