社会人野球で少なくなった高卒選手
日本選手権は大阪ガス、都市対抗野球は東京ガスがそれぞれ優勝を果たした2021年の社会人野球。
2年連続で冬の開催となった都市対抗では特徴的な応援が復活するなど、大きな盛り上がりを見せた一方、最盛期に比べると企業チームは半数以下に減っており、社会人でプレーを続けることも難しくなっているのが現状だ。
そして、特に顕著なのが、高校から入社する選手の少なさである。
昨年は高卒2年目の河野佳(大阪ガス)が年間ベストナイン・最多勝・最優秀防御率の三冠に輝いたが、年間表彰された選手で他に高校から社会人入りしたのは、14年目の大ベテランである吉田潤(東芝)だけ。
負けたら終わりのトーナメントが多くなると、どうしてもスケールよりも完成度を重視するため、高卒選手を抜擢しづらいという事情がある。
しかし、そんな中でも昨秋のドラフトでは高卒3年目の山田龍聖(JR東日本/巨人2位)と水野達稀(JR四国/日本ハム3位)が高い順位で指名されており、早くから社会人でも力を発揮している高卒の選手は存在している。
そこで今回は、都市対抗でキラリと光った高卒ルーキーを紹介したい。
高卒とは思えない完成度
投手で筆頭候補となるのが、NTT東日本の片山楽生(白樺学園)だ。
高校時代は2年秋にエースとして北海道大会優勝を果たし、明治神宮大会に出場。ストレートのスピードは130キロ台中盤程度だったが、バランスの良いフォームは当時から目に付く存在だった。
翌年春に出場予定だった選抜高校野球は新型コロナウイルス感染拡大で中止となったものの、冬から春にかけて体が一回り大きくなりスピードがアップ。夏に行われた甲子園交流試合でも140キロを超えるスピードをマークして注目を集めたが、プロからの指名はなく、NTT東日本に入社する。ちなみに、現チームのメンバーで高校から入社したのは片山だけであり、それだけチームの期待も大きいことがよく分かる。
春先からリリーフとして起用されると、7月に行われた日本選手権の三菱重工East戦では最速151キロをマーク。また、都市対抗本大会では2回戦のTDK戦で先発を任せられ、5回1/3を投げて1失点の好投でチームの勝利に大きく貢献した。
立ち上がりこそ少しばらつきはあったとはいえ、ストレートは打者の手元でホップするような勢いがある。TDK戦でも16個のアウトのうち9個をフライで奪い、三振4つも全て空振りで記録している。
立ち上がりはストレートで押し、3回以降は変化球を多く混ぜるなど、長いイニングを想定した組み立てができるのも大きな長所だ。中盤以降に少しスピードが落ちるなどスタミナ面には課題が残るも、19歳の高卒ルーキーとは思えない“完成度”を備えている。順調にいけば2022年ドラフトの有力候補となることは間違いないだろう。
木製バットに全く苦労する様子がない
一方、野手で圧倒的な存在感を見せたのがENEOSの度会隆輝(横浜)だ。
佐倉シニア時代から“スーパー中学生”として評判となり、横浜高校でも1年夏、2年春と2季連続で甲子園に出場。社会人でもNo.1の名門と言えるENEOSでも高い打撃技術が評価され、抜擢された都市対抗予選でも5試合で5安打・2打点と結果を残した。
本大会でも「5番・右翼」で先発出場すると、初戦のJR東海戦では貴重な追加点となるソロを含む2安打の活躍。続く2試合は無安打に終わったが、初戦だけでも強烈なインパクトを残したことは間違いない。
高校時代からバットコントロールには素晴らしいものがあったが、体つきが一回り大きくなり、スイングの力強さも明らかにアップした印象を受ける。きれいに体の近くから振り出してフォローの大きいスイングの軌道は一級品で、木製バットにも全く苦労している様子が見られない。
外野の守備はまだそこまで目立たないが、送りバントの一塁到達タイムで3.85秒をマークしたように、脚力と走塁に対する意識が上がっているのもプラス材料だ。
高卒1年目でショ-トのレギュラーへ
都市対抗の本大会では結果を残すことができなかったが、ヤマハの相羽寛太(静岡)は高卒1年目ながらショ-トのレギュラーを獲得して注目を集めている。
静岡高時代から3拍子揃ったショートとして注目を集め、2年春には1番バッターとして甲子園に出場。ヤマハでも実績のある選手を押しのけて夏場から定位置をつかみ、都市対抗予選でも4試合で5安打・6打点をマークするなど、チームの第1代表獲得に大きく貢献している。
本大会ではチームは初戦で敗れ、相羽自身も2打席凡退したところで代打を送られる悔しい結果となったが、1回のピンチでは併殺を完成させるなど、4度の守備機会を無難にこなして高い守備力を見せた。軽快なフットワークと巧みなグラブさばきが持ち味で、社会人のプレースピードにも全く違和感なく対応している。
また、高校時代とは別人かと思うほど体つきがたくましくなり、スイングの力強さも確実にアップしている。来年は都市対抗での悔しさをバネに、不動のレギュラーに定着したいところだ。
その他、都市対抗では出番がなかったものの、投手では内田了介(Honda熊本/埼玉栄)や加藤優弥(日本製鉄東海REX/金沢龍谷)が既に最速150キロを超えるスピードをマークしている。
さらに、野手では布施心海(JR東海/明豊)が予選で全6試合に出場するなど、早くも戦力となっている。冒頭で触れた河野のように、今年も高卒2年目で大ブレイクする選手が出てくることを期待したい。
☆記事提供:プロアマ野球研究所