1月連載:ネクストブレークの候補者たち
2022年、球界に新たな戦いがはじまる。
昨年は新人選手の活躍が目立った一方、ヤクルトの奥川恭伸や塩見泰隆、オリックスでは宮城大弥や紅林弘太郎ら、フレッシュな顔ぶれがリーグ優勝に大きく貢献した。
若者たちの躍進はチームに勢いをもたらし、球界の勢力図さえ変えてしまうパワーを持っている。
さて、今年はどんなホープが話題と人気を集めるのか…?
新人選手は未知数として、ここでは入団数年後の成長株に焦点を当てて、「ブレーク」の可能性を探ってみたい。
第1回:広島・林晃汰に見る“ポスト誠也”の輝き
あのイチローさんも愛してやまない智弁和歌山高出身の林晃汰は今年、4年目のシーズンを迎える。
同期には、遊撃のレギュラーをつかんだ小園海斗が一歩先を走っている。その小園がドラフト1位なら、林は3位指名。それでも豪快な打棒は高校時代から全国に知れ渡っていた。
2年のファーム生活を経て、昨年はシーズンの大半を小園との三遊間で守り通した。まさに“プチ・ブレーク”の1年だった。
運は意外なところからやってくる。
昨年の5月中旬、チームはコロナ禍に襲われ隔離者が続出した。編成にも苦慮する中で、特例の代替選手として一軍に呼ばれたのが林だ。
それでも、すぐに結果を出すあたりが大物らしい。6月の月間打率は.340を超えて、三塁の定位置をモノにする。
一時は戦列離脱した鈴木誠也に代わって4番に起用され、9月には8打数連続安打を放ち、球団歴代2位タイの記録も作った。
シーズン通算では102試合出場。打率.266、10本塁打に40打点の数字は、実質1年目の一軍成績としては目を見張るものがある。
なかでも特筆すべきなのは、10本塁打の長打力にある。
高卒野手がプロ3年目で2ケタ本塁打をマークするのは珍しい。直近の例で言えば、2年目に36本の村上宗隆(ヤクルト)は例外として、岡本和真(巨人)の3年目はファーム暮らしが長くゼロ。広島の大黒柱である鈴木誠也でも5本だから、林の潜在能力の高さがうかがえる。
特にシーズン終盤の9号・10号はいずれも中堅から左、つまり逆方向へ叩き込んでいる。村上や岡本を見ても、広角にアーチを量産できるのが本塁打王の秘訣。林にもその片鱗がのぞいている。
「自分としては、やれた部分もあったし、後半戦で打てなかった悔しさもある。今年はまずレギュラーに定着する事。その先はチームで一番、打つバッターになりたい」と、今季は20本塁打を目標に掲げた。
自らの腕で道を切り拓くことができるか
広島は開幕を前に重大な試練に立たされている。「ポスト鈴木誠也」の問題だ。
昨季は首位打者に輝き38本塁打を記録した「ミスター赤ヘル」がメジャー挑戦を表明。絶対的な4番不在でシーズンを迎える。
「誠也の代わりはいないし、誰が出ても誠也以上の存在はいない。彼が抜ける穴は本当に大きい。みんなが束になってカバーするしかない」と、佐々岡真司監督も頭を抱える。
そんな指揮官の頭の中にある“ポスト誠也”の候補は坂倉将吾や西川龍馬、そこに林も入ってくる。
新戦力では、3Aでリーグ最多の本塁打を放ったライアン・マクブルームへの期待が大きい。一方で、大穴として松田元オーナーからはドラフト6位ルーキーの末包昇大(大阪ガス)の名前まで飛び出しており、どれだけ悩みが深いのかがわかる。
伸び盛りの21歳、林にとってまだまだ打・守ともに改善すべき課題は多い。
93三振と12失策はどちらもチームワースト。未完の大器だけに、首脳陣の絶対的な信頼を勝ち得ることがスターへの条件となる。
佐々岡監督は昨年の秋季練習で、坂倉に三塁の練習を課している。マクブルームが一塁を守る時は、坂倉の三塁起用もあり得る。マクブルームが外野なら、林の三塁は固定されるだろうが、万が一調子を落とせば坂倉にとって代わられる可能性もある。要は林自身が得意の打棒でクリーンアップに欠かせない存在になる事だ。
高校生野手の多くは、入団3〜5年が開花の分岐点となるケースが多い。先述の岡本も、そして鈴木も、4年目で大器の真価を発揮しだしている。
林を獲得した鞘師智也スカウトは「泥臭くがむしゃらに野球に取り組むのが彼の持ち味。器用ではないがとにかく努力家」と語っている。いかにもカープ好みの成長株である。
昨年の“プチ・ブレーク”が本物に変わった時、「ポスト誠也」の重要テーマはかなり、改善されるはずだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)