貢献度を図る「赤星式盗塁指標」
2021年シーズン、セ・リーグの盗塁王のタイトルを獲得したのは、新人ながら30盗塁をマークした中野拓夢(阪神)。一方のパ・リーグは荻野貴司(ロッテ)、和田康士朗(ロッテ)、西川遥輝(日本ハム)、源田壮亮(西武)が24盗塁で並んで4人の盗塁王が生まれた。ただ、この4人にも違いがある。それは「盗塁成功率」だ。
セイバーメトリクスにおいて盗塁の損益分岐点といわれるのは、盗塁成功率70%弱である。盗塁成功率が70%を切るようなら、チームの勝利のためには盗塁を試みないほうがいいというわけだ。そこで、盗塁数だけでなくその成功率も加味したチームへの貢献度を測るために、2021年シーズンにおける「赤星式盗塁指標」ランキングを見てみたい。
一部の野球ファンには知られているが、赤星式盗塁指標とは「盗塁は、成功数だけでなく失敗数にも着目して評価すべきだ。いくら盗塁が多くてもそれが盗塁死の倍と等しいならば価値はゼロ」という赤星憲広氏(元阪神)の発言にもとづき、「赤星式盗塁指標=盗塁数-(盗塁死数×2)」という数式で算出されるというもの。
もちろん、この赤星式盗塁指標は“正式”な成績ではない。ただ、この数字がゼロ、すなわち盗塁を試みるべきではないという評価になるのは盗塁成功率67%(盗塁企図3回で盗塁死1回)のときとなる。セイバーメトリクスにおける盗塁の損益分岐点である70%弱とほぼ合致しており、盗塁に関してその成功率も含めて選手を評価するうえで有用な数字といえるだろう。
では、肝心の赤星式盗塁指標を見てみよう。
【2021年12球団「赤星式盗塁指標」ランキング】
※5盗塁以上成功した選手が対象
※指標[盗塁成功数/盗塁死]
1位 26 中野拓夢(神)[30/2]
2位 14 和田康士朗(ロ)[24/5]
3位 12 牧原大成(ソ)[14/1]
4位 11 塩見泰隆(ヤ)[21/5]
4位 11 周東佑京(ソ)[21/5]
6位 10 近本光司(神)[24/7]
7位 9 岡 大海(ロ)[11/1]
8位 8 植田 海(神)[10/1]
9位 7 野間峻祥(広)[9/1]
9位 7 福田周平(オ)[9/1]
9位 7 五十幡亮汰(日)[9/1]
9位 7 吉川尚輝(巨)[7/0]
13位 6 源田壮亮(西)[24/9]
13位 6 三森大貴(ソ)[16/5]
13位 6 島田海吏(神)[8/1]
13位 6 柳田悠岐(ソ)[6/0]
数字から見える“チームの課題”も…
「26」という数字でトップとなったのは中野。赤星式盗塁指標で2位の和田に「12」もの差をつけた。和田ら4人のパ・リーグ盗塁王のうち3人を抜き去って3位となったのが、パ・リーグ盗塁ランキングでは8位の牧原大成(ソフトバンク)だ。20盗塁以上の選手がひしめく上位のなかで、牧原は14盗塁。盗塁死がわずか1という高い盗塁成功率によって順位を上げた。
そして、4人のパ・リーグ盗塁王のうち、上記のランキング圏外となってしまったのが荻野と西川。ふたりはともに24盗塁をマークしながらも11盗塁死を喫し、赤星式盗塁指標では2にとどまった。その盗塁成功率も69%と、70%をわずかに下まわることになった。荻野の場合には、加齢による足の衰えも影響しているのかもしれない。
同じような衰えが垣間見えたのが、36歳で荻野と同年齢の大島洋平(中日)だ。ベテランの域に入っている大島だが、もともと足には定評があり、2021年シーズンもリーグ4位、チームトップの16盗塁を残した。しかし、一方で8度の盗塁死を犯し、赤星式盗塁指標ではゼロとなり、5盗塁以上をマークした62人の選手のなかでは41位タイにとどまる。
中日では、赤星式盗塁指標において加藤翔平が残した4(8盗塁2盗塁死/※ロッテ時代の数字を含む)という数字がトップであり、加藤に大島が続く。チームで大島に次ぐ15盗塁をマークした髙松渡も盗塁成功率は63%と低く、赤星式盗塁指標ではゼロを切って−3(15盗塁9盗塁死)である。
そして、63%という数字は中日のチーム全体の盗塁成功率でもある。この数字はDeNAの53%こそ上まわっているものの、リーグトップである阪神の79%と比ぶべくもないリーグ5位の数字だ。長打に期待できるDeNAとはちがい、それこそ長打力に大きな課題を抱える中日の場合は機動力を絡めるといった別のアプローチも求められるだろう。長い低迷期にある中日の課題がまたひとつ見えてきたようだ。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)