第3回:中日・石川昂弥、「清原級大砲」への期待
ちょっと「先物買い」かも知れない。だが、中日の3年目・石川昂弥選手はひょっとすると、今季、大化けする可能性のある逸材だ。
まずは、立浪和義新監督の石川評から紹介したい。
「ボールを遠くへ飛ばす打者は、過去にもたくさんいましたが、そんなに振っている感じがなくて打球が飛ぶ。ボールを運んでいるイメージは清原和博さんみたい。持っているのは天性の才能。30本塁打打てる可能性なら(チームで)一番近いと思う」
立浪監督にとって、PL学園時代の先輩である清原氏(元西武など)を引き合いに出すくらいだから、その期待度がうかがい知れる。
指揮官だけではない。チーム最年長の福留孝介選手は「モノが違う」と語り、中日OBの山﨑武司氏も「球界屈指の金の卵、将来はヤクルトの村上くらいになる」と素材の良さに二重丸。誰をも虜にする魅力が石川にはある。
19年ドラフト1位。奥川恭伸(ヤクルト)、佐々木朗希(ロッテ)、宮城大弥(オリックス)選手らと同期だ。高校生野手としては評価が高く、3球団競合の末に地元・中日が射止めた。彼らと共に出場したU-18W杯では四番として活躍したが、プロでは後れをとっている。
入団1年目の沖縄キャンプで右肩腱板炎、昨年は試合中に死球を受けて左尺骨の骨折で長いリハビリ期間を要した。つまり、満足に真価を発揮できないまま2年間を終えている。それでも、石川のフリー打撃を見た関係者はそのスケールの大きさに度肝を抜かれる。ましてや、チームは深刻な貧打と大砲不在に泣いている。「清原級」なら是が非でも育て上げなければならない事情がある。
昨季のチーム打率.237に、同得点405で本塁打69本はいずれもリーグワースト。投手陣はセリーグトップだからいかに片肺飛行でBクラスに沈んだかがわかる。チーム本塁打は169本の巨人と100本差。個人別を見てもダヤン・ビシエド選手の17本が最高で2ケタは木下拓哉選手が11本で続くだけ、これでは得点力も飛躍的には上がらない。
立浪新体制になって、「投高打低」を打破するべく改革に着手した。打撃コーチに、かつてのホームラン王・中村紀洋氏を招請、昨オフのドラフトではブライト健太(上武大)、鵜飼航丞(駒澤大)選手とパワフルで即戦力の外野手を上位指名して攻撃力アップを目指している。
中村コーチの指導で新打法に手ごたえ
中でも「石川の教育係」を公言する中村コーチと立浪監督は秋季キャンプでも将来の四番候補に付きっきりで熱血指導。中村コーチの教えは「手で打つ。球をつぶす。外も引っ張る」とユニークなもの。従来なら下半身主導の打撃を「上半身8割下半身2割」と真逆に思えるが、要はきれいに打つのではなく、スタンドまで叩き込む長距離打者への意識改革だ。その結果、外角を流し打っていた石川の打球は中堅から左へ。「打球がよく飛ぶ」と本人も新打法に手ごたえを感じ始めている。
天性の飛距離を一軍の実戦でどう発揮していくのか。立浪監督は今後の課題も指摘する。
「ポイントが体に近いため、差し込まれるケースがある。甘い球をファウルや空振りするのは(高校までの)金属バットの癖。それをクリアできれば非常に楽しみ。大化けする可能性はある」
本職の三塁には3割経験者の高橋周平選手がいて、レギュラーの座を掴むには高い壁となる。だが、指揮官は昨秋のキャンプから高橋に二塁の練習も課している。近い将来に石川が出てきたときの布石と受け取ることも出来る。
即戦力ルーキーたちだけでなく、レギュラー取りを期待される根尾昂選手や打撃のいいアリエル・マルティネス選手も外野にコンバート。主砲のビシエドにも30ホーマーを目標に打法改造を要求している。それでも足りない長打力と破壊力を補うには石川の急成長が必要不可欠だ。
2月の沖縄キャンプでは一軍での始動が決まった。新庄日ハムのような派手な話題はないが、3年目の若者の打撃が間違いなく評論家たちの目をくぎ付けにするだろう。
まずはキャンプ、オープン戦を通じてどれほどの結果を残せるか。チーム事情を考えれば、多少のミスは目をつぶってでも使ってみたい。“ネクストブレーク”成否のカギはこの2カ月間が握っている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)