2月連載:キャンプの“ツボ”
今年も球音が春の到来を告げる。プロ野球12球団がキャンプに突入した。
国内では日本海側を中心に、例年以上の大雪に見舞われ、コロナの猛威は依然として衰える気配がない。球界もまた、厳戒態勢の中ではあるが3・25の開幕に向けて調整のギアをあげる。
新監督の誕生、大物ルーキーの出現や新外国人選手の働きなどで今季の勢力地図はどう変わっていくのか? 約1カ月に及ぶキャンプはそれぞれのチーム事情が色濃く投影される期間でもある。楽しみな材料から不安な要素まで、注目ポイントを絞って掘り下げてみる。
第1回:大エース2人がキャンプ初日に見せた熱量
楽天の田中将大投手が、キャンプ初日からブルペン入りした。
しかも、一番乗りでマウンドの感触を確かめるように36球。メジャー時代は2月中旬に本格始動だから、異例の早さと言っていい。
「ここ数年になかったスケジュール感」との言葉に今季に賭ける思いが凝縮されている。
今季の話題度では日本ハム・新庄剛志監督に譲るが、昨年のキャンプの主役は8年ぶりに国内復帰した「マー君」だった。名門・ヤンキースで6年連続の2ケタ勝利。年俸9億円の帰ってきた大エースは優勝への切り札と一心に期待を集めた。
しかし、復帰1年目は4勝9敗と思わぬ成績で終わってしまう。
投球内容を見ると、防御率3.01はリーグ5位と悪いわけではない。先発23試合でクオリティースタート(6回を3点以内)は17回を数える。だが、1試合の平均援護点は2.16。さらに付け加えれば先発の約半数にあたる12試合で味方の援護は1点以下。要は打線がだらしなさ過ぎたとも言える。
田中にとって、そんなチーム事情を言い訳にする気はない。異例の早期ブルペン入りは、去年の不成績を恥じ、エースとしてのプライドを取り戻す決意の表れだ。
前年はキャンプ地入りも遅れ、ブルペンに登場したのは第2クールから。メジャー時代の調整法もあって、首脳陣は田中の仕上げ方を尊重した。ところが、順調に調子を上げてきたはずが、開幕直前で右ふくらはぎを痛めて初登板は4月中旬までずれ込んでしまう。これが、後々まで響く。運にも見放されたエースに「神の子」の姿はなくなっていた。
キャンプで監督が最も目を光らせるのはブルペンだと言われる。
野球における投手の役割は大きい。なかでも先発陣が安定すれば勝利の確率ははね上がる。主戦投手たちの今年の球の走り具合は? 新戦力として期待するホープの成長度は? 出遅れている投手はいないか? 戦力の把握と構築はそこから始まる。
仮に田中が、期待通りに15勝近くをあげていれば66勝に終わった昨年のチーム勝利数はオリックスを抜いて優勝ラインまで届いていた計算になる。石井一久監督にとっても、昨年とは一味違う、田中の姿は何よりの戦力アップにつながる。
2年連続の停滞は許されない
巨人では菅野智之投手がキャンプ初日からブルペン入り。2日後にも2度目の本格投球を行っている。こちらも、昨年は右肘の違和感などで戦列を離れて6勝(7敗)止まりに終わった。
「初心に帰る意味も込めて、もう一回、足元を見つめ直して先頭に立ってやっていこうと」
田中がメジャー帰りなら、菅野は一昨年、ポスティングでメジャー挑戦を決意した。条件面で折り合わずチーム残留となったが、オフの間の多忙が調整不足を招いた一因と言われている。両リーグを代表するエースたちの変身がペナントレースにも大きな影響を及ぼすのは間違いない。
田中の伝家の宝刀と言えばスプリットボール、菅野ならスライダーだが、二人とも今季のブルペンでは伸びのあるストレートに磨きをかけている。今では150キロ超の直球が当たり前の時代、一方ではデータ分析が進み、変化球だけでかわすのも難しい。伸びのあるストレートがあってこそ、魔球も生きる。毎年のように変化を恐れず、新たなテーマを構築して挑戦するのも超一流の証だ。
共にベテランの域に差し掛かっている。2年連続の停滞は許されない。
それにしても、エースたちにして、この熱量。若手を始め、一軍のローテーション入りを目指す者たちが大舞台を踏むには更なる努力が必要になる。プロの世界はどこまでも厳しい。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)