第2回:NPBで二刀流に本格的に挑戦する2人の投手
BIG BOSS、新庄剛志監督の誕生で話題を独占する日本ハムの沖縄キャンプに、ユニークな挑戦で注目を集めている選手がいる。昨年秋から、本格的な二刀流を始めた上原健太選手だ。
大谷翔平選手(エンゼルス)と同じ1994年生まれの27歳。今では二人の立場は大きく違うが、こちらも15年のドラフト1位。アマチュア時代は東京六大学の雄・明治大学のエースとして名を馳せた逸材だった。
以前から栗山英樹前監督に二刀流を勧められ、稲葉篤紀GMの正式な打診に決断した。
「やってみたい気持ちと自信のなさで2日くらい考えた」と言う。最後は「ラストチャンス」の思いが決め手となった。
最速150キロ超の大型左腕としてプロの門を叩いたが6年間で7勝11敗、防御率は4.77と苦しんでいる。特に直近3年間では2勝止まり、昨年はついに未勝利に終わった。このままでは、近いうちに整理対象になるかも知れない。球団からの提案は最後の挑戦の場をもらったに等しい。
元々、身体能力ではナインから一目置かれるほどの存在だった。投手以外でも、50メートル5秒7の俊足。あるチーム関係者は昨年限りで楽天に移籍した西川遥輝選手を引き合いに出して「彼より速かった」と証言する。盗塁王を4度獲得する韋駄天より俊足ならものすごい。加えて瞬発系の測定でも、野手を抑えてチームトップクラスの数値を記録している。さらに18年6月の広島戦では投げて5回3被安打1失点に抑え、打っても右中間スタンドにプロ1号。二刀流の資質は十分に有していると言っていい。
メジャーでも元祖二刀流と呼ばれるベーブルース以来100年ぶりの偉業を成し遂げた大谷は日本ハムに入団した18歳から並外れた能力と、血のにじむ努力で頂点に駆け上がった。これに対して上原の現在地は、まだ“仮免中”と言った段階だ。
秋季キャンプから、経験の浅い打撃に重点を置き、バットを振り込む。実戦を想定して「生きた球、動く球」にどれだけ対応していくかが課題。それをクリアして初めて二刀流の出発点に立つ。ブルペンで投げるだげでなく、野手として外野や一塁の守備も挑戦中。当然、練習量はこれまでの倍以上となる。それでも、久しぶりに多くの注目を浴びて上原の表情はやる気に満ちている。派手好きで、話題作りのうまい新庄監督のこと、意外に早く二刀流デビューの日がやって来るかも知れない。
大谷の出現によって、メジャーでも二刀流を目指す選手がたくさん出てきた。労使紛争中のMLBだが、近い将来、ナ・リーグでもDH制採用の機運が高まっている。そうなれば、同リーグで打撃のいい投手には大谷のような二刀流に挑戦する者も出てくるだろう。
国内に戻れば、二刀流の挑戦は上原だけにとどまらない。
ソフトバンクの育成2年目、桑原秀侍投手も投打の挑戦を始めた。神村学園高時代から投手、遊撃、外野で活躍、こちらも球団の提案に即決したと言う。
今年のドラフト上位指名候補にも「リアル二刀流」
さらに、今秋のドラフトでは上位指名が有力視される「リアル二刀流」もいる。日体大の矢沢宏太選手だ。最速149キロの快速左腕は、打っても4番で50メートル5秒8の脚も兼ね備えている。所属する首都大学リーグではDH制を採用しているが、矢沢の登板時はDHを解除して「リアル二刀流」を実践している。
憧れの選手は中日・大野雄大投手と楽天・辰己涼介選手と言うから、本気度は高い。もちろん、大谷の動画を繰り返し見て研究に余念がない。
「投手と野手のどちらもプロのレベルに行きたい」と言う、大谷に一番近い男の成長をプロのスカウトも注視している。
昔も今も、少年野球の時からエースと呼ばれる少年は運動能力が高く、4番に起用されることも珍しくない。今後は二刀流の大谷を目指す若者が増えていくだろう。指導者も二者択一を迫るのではなく、可能性があるなら追及させてほしい。
大谷翔平によって、野球の景色は変わった。二刀流によって新たな夢が確実に広がっている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)