最終回:レジェンドたちの動向も注目を集めるキャンプ
西武ファンならずとも、垂涎のツーショットが実現した。
清原和博、松坂大輔両氏が22日、沖縄・北谷で行われている中日キャンプを視察に訪れたからだ。
共に甲子園の怪物として西武入り。その後は清原氏が巨人、オリックスへ移籍、松坂氏はメジャーで活躍後、ソフトバンク、中日を経て、昨年、古巣の西武で現役引退している。
13歳の年齢差もあり、二人のそろい踏みは実現していない。だが、球史に名を残すレジェンドが握手する姿は、間違いなく、この日の主役だった。
清原氏は8年ぶりにキャンプ訪問が実現
清原氏のキャンプ訪問は実に8年ぶりのこと。現役時代の華々しい活躍を裏切る形で覚醒剤不法所持により逮捕されたのは2016年、その後懲役2年6カ月(執行猶予4年)の刑に服して、再起を図っている。
今回の中日キャンプ訪問も、立浪和義監督に「キャンプへ行っていいか?」と申し入れて実現したと言う。
立浪監督にとって、清原氏はPL学園の2学年先輩、尊敬し、憧れの存在だった。清原氏の不祥事後も食事に誘うなど再起に向けて心を配っている。肩身の狭い思いをする先輩が最も訪れやすかったのが中日のキャンプと言う訳だ。
しかし、球場に足を運べば野球人の血がたぎる。指揮官の求めに応じて3年目のホープ・石川昂弥、ルーキーの鵜飼航丞両選手らにアドバイスを送った。
特に近い将来の四番候補と目される石川には「(打席での)タイミングを獲るのが遅い。チャンスでは初球からしっかり振れる準備をしろ」と指摘。
素材の良さには「面構えもいいし、右中間にいい打球を飛ばしていた。コツコツやっていけば400本、500本と打てる可能性がある。日本代表だって夢じゃない」と激励した。
評論家1年目の松坂氏はブルペンを中心に取材、こちらは横浜高の後輩・柳裕也投手らの投球に熱い視線を送った。
ユニホームから背広姿に代わっても松坂人気は健在だ。広島では九里亜蓮、巨人では戸郷翔征投手らが、伝家の宝刀であるスライダーの握りや投法を教わりにやって来る。年齢が近い分、選手たちにとっても聞きやすいのだろう。
選手の意識改革を促す新庄流の狙い
キャンプと言えば、主役はもちろん選手たちである。だが、評論家やOBたちの露出はそれなりに意味がある。代表例は新庄剛志新監督が誕生した日本ハムだろう。
「新庄殿の8人」とマスコミが命名した日替わり臨時講師にはタレントで元陸上十種競技日本記録保持者の武井壮氏、ハンマー投げの王者・室伏広治現スポーツ庁長官や阪神OBの赤星憲広氏らを招請。そればかりか、藤川球児(元阪神)、谷繁元信(元大洋、中日)、前田智徳(元広島)各氏など取材にやって来る評論家にまで即席コーチを依頼している。
今までの価値観を取り払い、選手の意識改革を促す新庄流の狙いがそこにあるが、有名OBたちが登場することによって、無名に近い若手たちもマスコミを通じて露出することが出来る。そこまで計算しているとすれば新庄監督は名プロデューサーと言えるだろう。
キャンプとは、シーズン本番を前に心身を鍛える場だが、「試し」が許される場でもある。投手なら新球をマスターすれば強力な武器となる。打者なら打法改造でレギュラーの座を掴むきっかけになる。
ヤクルトでは古田敦也氏が二年連続で臨時コーチとして指導に当たった。昨年は中村悠平捕手の再生に貢献して日本一の陰の立役者になっている。本来なら時間をかけて細部まで指導する形が理想だ。清原氏の場合は、まだまだ本格的な球界復帰とはいかない。それでも、夢の一歩を記したことも間違いない。
熱烈指導を行った翌23日には、中日の二軍キャンプを訪れる際に、那覇市内で交通事故を発見。道路上で倒れている男性を清原氏が自ら抱えて救出する人命救助でも大きな話題を呼んだ。
開幕まで間もなく1カ月。清原氏がアドバイスを送った石川は一軍レギュラーへのきっかけをつかめるのか? 松坂氏が手放しに絶賛した佐々木朗希投手(ロッテ)は「令和の怪物」として大エースの道を歩み始めるのか?
レジェンドたちの動向も注目を集めるキャンプ。願わくば、清原氏や松坂氏を超すスーパースターの出現を期待したいものだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)