3月連載:メジャーリーグは今
米球界が大揺れに揺れている。
現地時間1日(日本時間2日、以下は現地時間で表記)フロリダ州で行われたMLB機構(オーナー側)と選手会との労使交渉は決裂、MLBは3月31日に予定されていた開幕から2カードの中止を発表した。開幕が延期となるのは1995年以来27年ぶりのことだ。
労使双方が主張を譲らずに、妥協点が見いだせない現状では、さらなる開幕延長も予想されている。日本人メジャーリーガーだけを見ても、大谷翔平選手のFA(フリーエージェント)取得期限や、新たにメジャー挑戦を決めた鈴木誠也選手の進路などに重大な影響を及ぼしている。この先にどんな決着が待っているのか? 混乱のメジャーの現状を追う。
第1回:混迷の度を深める労使交渉
メジャーリーガーが、毎年春に集うフロリダとアリゾナは全米でも温暖な地として知られる。キャンプの球音が響く頃には、各地から避寒のためにやってきた老夫婦たちを中心に、球場は活気を呈する。
ところが、今年のフロリダはMLBと選手会が、ガチンコ勝負の「銭闘」の場と化した。昨年12月にオーナー側から出されたロックアウトにより、球場や付帯施設の使用は不可。これまで、15回に及んだ話し合いは、決着を見ることなく開幕の延期が決まった。
本来なら3月31日に予定されていた開幕。それには2月中の合意が「デッドライン」とされてきた。キャンプから開幕まで、最低4週間の準備期間が必要とされてきたからだ。そのため、同月下旬から交渉は9日間連続で行われている。特に28日には午前10時から翌日の深夜2時過ぎまで、実に16時間半に及ぶ異例のロングラン。それでも溝は埋まらなかった。
新労使協定締結のための大きな争点は3つ。
①「最低年俸」…選手会が72万5000ドル(約7980万円)を要求に対して、MLBは70万ドル(約7700万円)を主張。
②「ぜいたく税」…収入の低いチームにMLBからより多くの分配金を与えて収支改善を図るのが目的。その基準額を選手会は2億3800万ドル(約262億円)に対してMLBは2億2000万ドル(約242億円)としている。
③「ボーナスプール」…年俸調停権を得る前の選手に対し、年俸のほかに活躍に応じてボーナスを与える制度。各球団が拠出した金額の総額から払う。選手会は8500万ドル(約93億5000万円)の要求に対し、MLBは3000万ドル(約33億円)を主張して、隔たりは大きい。
メジャーの労使交渉はこれまでも新協定を結ぶ際、常に紛糾してきた。
過去には選手によるストライキが5回、経営側のロックアウトが今回を含めて4回。日本球界と比較して、あまりに金額が違い過ぎて双方の主張の良し悪しは判断がつかないが、待遇改善を要求する選手会側と健全経営を模索する経営者側とのせめぎ合いは年々、先鋭化しているようだ。
ここまで混迷の度を深めると、関係者の間でもどちらが先に屈服するかと言う“チキンレース”の声まで聞かれる。
MLBのロブ・マンフレッドコミッショナーは、1カ月遅れの開幕も辞さないと強気な姿勢をのぞかせ、交渉が決裂した1日の記者会見では、笑みまで浮かべる姿にSNSでは炎上したと言う。対する選手会側では、スポーツ界の労使交渉のスペシャリストとされる敏腕弁護士のブルース・マイヤー氏が先頭に立って一歩も引かない。
このままでは、2カードの中止が決まった開幕が、さらに延びて4月中旬説まで出始めている。
ファンの野球離れが加速する可能性も
メジャーリーグでは、近年、ファンの野球離れが問題視されている。
直近の2年はコロナ禍の例外としても、2019年に発表された30球団の1試合平均観客数は28339人で、4年連続のダウン。2015年時と比較すると実に500万人の減少と報告されている。
長引く労使交渉と開幕の延期は、野球に対するイメージダウンとさらなる観客減を招く恐れがある。ファン不在の“チキンレース”がもたらすものとは?
MLBは巨額の放送権料や商標権で潤い、選手はファンが球場に足を運ぶから高額サラリーを手に入れることが出来る。すべてはファンあってのベースボールなのだ。
「我々は早く野球が見たい!」
ロックアウト中の球場前でプラカードを掲げるファンのためにも、これ以上の混迷は許されない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)