「7回の男」を巡る争い
2022年のタイガースにおける最大の懸案にして、“新星”や“救世主”が生まれる場となりそうなのが「ブルペン」だ。
昨季まで2年連続でリーグ最多セーブのタイトルを獲得していたロベルト・スアレスが、メジャー挑戦のため退団。バトンをつなげば勝利はほぼ約束されていた絶対的な守護神が抜けた穴は、とてつもなく大きい。
当然ながら、フロントは補強に動いて新外国人としてカイル・ケラーを獲得。コロナ禍のため来日が遅れ、キャンプには参加できなかったが、勝ちパターンの一角として起用されることになるだろう。
加えて、セットアッパーとしてチームを支えてきた岩崎優も、コロナ感染で出遅れてはいるものの、開幕には間に合うように急ピッチで調整を進めている。並びは未定だが、おそらくこの2人が8回・9回を担う。
ただし、「勝利の方程式」で考えれば、7回を任せられる存在も必要になってくる。若手には大きなチャンス到来となったが、激しい競争というよりは、アピール不足のイメージで“本命”が見えてこないまま春季キャンプは終わった。
そんな中、力を誇示したのが6年目の小野泰己。5日の楽天戦で5回に登板すると、そのポテンシャルを見せつけた。
対峙した3人をすべて三振に仕留める圧倒的なピッチングで、決め球はスライダーとフォーク、そしてストレート。今春すでに157キロをマークしている自慢の直球だけでなく、変化球のレベルアップをテーマに掲げていた男が、有言実行のパフォーマンスで存在感を示した。
もともと開花を期待されてきた選手で、先発として2年目までで計9勝をマーク。近年は中継ぎに転向するも、一軍定着はできていない。
近本光司、藤浪晋太郎らと同じ世代の27歳。矢野燿大監督の期待も高く、楽天戦後には「ひとつかみ合えば、本当に勝ちパターンに入ってくるような能力を持っている」と評している。
能力を「潜在」だけで終わらせるわけにはいかない。本人も「もっと自分の意図した投球ができるようにやっていきたい」と基準を一軍レベルに置いて、更なる良化を期した。
「延長12回制」も見据えて…
他の候補にも目を向ければ、実績と経験で勝るのは9年目の岩貞祐太。昨年も開幕時は7回を担った男だが、本格的に転向した中継ぎで蓄積する疲労のコントロールに苦慮したこともあり、年間通してパフォーマンスを発揮することができなかった。今オフはその反省を踏まえ、持久力や馬力を付けるために筋力アップにも着手。開幕へ向けて順調に状態が上がっていけば、「7回の男」としてチームをけん引してくれるはずだ。
若手では速球派の湯浅京己、2年目の石井大智が6日の楽天戦で8回・9回の1イニングずつを任されて無失点。指揮官は「もっともっと中身の濃い競争をしてもらえたら」と奮起を促した。
ブルペンのトピックで言えば、今年は延長12回制に戻るため、運用もカギを握る。起用される人数や、1人あたりの消化イニングも増えることが予想されるため、オープン戦では小川一平や浜地真澄を3イニング、及川雅貴を2イニングと、複数イニングの起用もテスト中だ。
17年ぶりのリーグ優勝に向けて、「7回の男」と「ロングマン」はキーワードになりそうだ。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)