白球つれづれ2022~第12回・オープン戦で見えた楽天のチームとしての「上がり幅」
春の珍事か、吉兆か。楽天が球団史上初のオープン戦優勝を決めた。
20日の巨人戦が王者の底力を証明した。4回に炭谷銀仁朗選手が先制タイムリーを放つと8回には、オープン戦絶好調の和田恋選手が右越えに一発。投げては昨年10勝を上げてブレークした瀧中瞭太投手が7回途中まで無失点の内容。
エースが投げなくても、主軸が打たなくても、勝ててしまうのが好調の証だ。しかも、炭谷、和田は巨人からの移籍選手だから、敗れた巨人関係者の胸中も複雑だろう。
西川の加入でリードオフマン不在の弱点を補う
オープン戦の順位は必ずしもペナントレースに直結しない。直近の10年間のオープン戦優勝チームのシーズン成績は優勝3度に、Aクラスが4度で、Bクラスに沈んだチームも3度ある。
一方で昨年のヤクルト、一昨年の巨人は共にオープン戦最下位からリーグ優勝している。それでもデータ的に優勝チームのAクラス入り確率は7割、何より気分よく開幕を迎えられることは大きい。
石井一久GM兼監督が勝負を賭ける2年目。オープン戦の戦いを見る限り、チームとしての「上がり幅」が最も大きいのが楽天である。
最大のプラス材料は西川遥輝選手の加入だ。
昨年オフに日本ハムを「ノンテンダー」の名のもとに実質上の自由契約。プロ11年間で311盗塁、4度の盗塁王を獲得する韋駄天男を、前年2億4000万円から8500万円の年俸で手に入れられたのだから、これ以上の買い物もない。
楽天の昨年のチーム盗塁数は45でリーグワースト、打って、走れるリードオフマンが不在だった。それが今季は西川が一番に座り、オープン戦では4割を超す働き。安打だけでなく、過去に4割を超す出塁率を2度マークしている。
「塁に出ることに特化した素晴らしい選手。次の塁を狙う事にも素晴らしい才能を持っている」と指揮官の信頼も絶大なものがある。
次は田中将大投手の意地がチーム浮上のカギを握ると見た。
昨季は防御率3.01とチームトップの投球内容を見せながら、味方打線との巡り合わせが悪く4勝止まり(9敗)。仮に勝ち星と負け数が逆転していたら、チームはオリックスに肉薄していた計算になる。
自己ワーストの屈辱をバネに臨む今季は、もう一度投球の原点であるストレートに磨きをかけ、早い仕上がりを見せている。元々はチームに大きな貯金をもたらす絶対エース。田中の巻き返しが優勝争いの大一番に生きてくるはずだ。
ルーキーの安田と9年目の和田が台頭
オープン戦の終盤には、新戦力に石井監督から「開幕スタメン」のお墨付きも出た。
新人捕手の安田悠馬と、二軍暮らしが長く続いた和田選手だ。これが第三の戦力アップにつながる。
昨年、夏前までは首位に立つなど優勝争いに加わったが失速。守護神・松井裕樹投手の故障や浅村栄斗選手の不振などに泣いたが、それを補うだけの戦力の厚みがなかった。
特に一、二番が固定できず、下位打線も弱くては爆発力に期待できない。それが、この春は「打てる捕手」として安田が台頭。巨人時代にはファームの本塁打王も獲得した和田が9年目に大変身を遂げている。
オープン戦3割5分を超す成績に、石井監督も「結果が出ているので、開幕スタメンにふさわしい状態」とゴーサインを出した。もし、この二人が勢いのまま滑り出せば懸案の下位打線のテコ入れにつながる。
投打がかみ合って「春の陣」を制した楽天にとって、最後の宿題は新外国人がチームにフィットするかだ。日本一のヤクルトではホセ・オスナ、ドミンゴ・サンタナ両選手の活躍が優勝に大きく貢献した。
楽天では今季からクリス・ギッテンスとホセ・マルモレホス選手が新加入したが、現時点では調整不足もあり実力は未知数。長丁場の戦いを見据えれば一発長打の助っ人パワーは必要不可欠である。最後のピースが上手くはまるか、どうかが次なる焦点となる。
3.25開幕から、いきなりロッテ、オリックスとの上位対決が待っている。特に開幕カードのロッテ戦は昨年9勝15敗1分けと最も苦手とした相手。この6試合が開幕ダッシュの最難関と言っていいだろう。
早春につかんだ確かな手応えを、本番でも生かせるか。石井楽天の真価が問われる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)