監督生活16年目、64歳を迎える通算1152勝の名将。
若大将・原辰徳もすっかり大御所の風格だ。気が付けば、バトンを引き継いだ長嶋茂雄監督が勇退した65歳も目前である。19年に3度目の巨人監督復帰後は、いきなり連覇を達成。しかし、昨季は勝率5割を切り首位ヤクルトに11ゲーム差の3位に終わった。激しいV争いによる3位ではなく、終盤に10連敗を喫する完全な息切れによるギリギリのAクラス確保である。
エース菅野智之は万全の状態には程遠く、4度の登録抹消を繰り返し6勝に終わり、シーズン途中に米球界から復帰した山口俊も15試合に先発して防御率3.56と最低限の仕事はしたものの、2勝8敗と勝ち星から見放された。19年は獅子奮迅の活躍で投手三冠の山口、20年は開幕13連勝でMVPの菅野と原巨人V2の立役者はそれぞれ彼らだった。
しかし、この二本柱が不調だった昨季は勝負どころで先発ローテが手詰まりに。9月からスクランブルの中5日ローテも機能せず、クライマックスシリーズ最終ステージの対ヤクルト戦は2敗1分けであっさり敗退してしまったが、第4戦の予告先発は公式戦の先発経験がない高木京介だった。もはや投手運用は完全に破綻していたわけだ。
長年、大黒柱としてチームを支え自身8度目の開幕投手が決まっている菅野は今年33歳、日米球界を渡り歩いた山口も35歳になる。まだ老け込む年ではないが、当然数年後を見据えた次世代ローテ再編の準備が求められる。いわばチームとしてひとつのサイクルが終わりつつあり、新たなベースを構築する時期だ。キャンプからオープン戦にかけて、19年ドラフト1位・堀田賢慎(20歳)、20年ドラフト2位・山崎伊織(23歳)、21年ドラフト3位・赤星優志(22歳)の“令和の闘魂三銃士”が先発ローテ入りを目指して猛アピール。
さらに調整の遅れが心配された昨季11勝の高橋優貴(25歳)、9勝の戸郷翔征(21歳)らも逆襲のチャンスを伺う。コロナ禍でチーム合流が3月にズレ込んだ新外国人投手のアンドリースやシューメーカーは、まずは2軍での調整登板後の昇格が予定されており、若手投手たちにとっては開幕直後が生き残りへのアピール合戦になりそうだ。
それにしても1年前の開幕ローテにはサンチェスや井納翔一が名を連ね、4月頭の菅野の代役先発でマウンドに上がったのは野上亮磨だったことを思えば、急激な若返りである。同時にその「期待の若手枠」さえも世代交代した感がある。若手でいられる時間は短い。チャンスを逃し続ければ、次の若手がやってくる。もちろん右肘手術明けの堀田や山崎、プロ1年目の赤星にいきなり多くを求めるのは酷だろう。だが、クローザー抜擢の可能性もあるドラ1ルーキー大勢も含め、2022年シーズンは未来の巨人のターニングポイントになりそうな1年だ。「1年目に種をまき、2年目に水をやり、3年目には花をさかせる」という野村克也監督の有名な言葉があるが、オフに新たな3年契約を結んだ原監督が、投手整備をした上で後任にバトンタッチできるか注目である。
2年連続で本塁打と打点の二冠に輝いた岡本和真は、25歳にして不動の4番に定着した。その存在が大きいからこそ、昨年のCSのように負傷でスタメンから名前が消えただけで、破壊力も半減する(ヤクルトとの最終ステージ3試合でわずか2得点)。坂本勇人や丸佳浩は好打者だが、大砲タイプではない。となると、やはり期待されるのは背番号10のあの男、中田翔だろう。
20キロ増量して臨んだキャンプでは昨年とは別人のような柵越えを連発して、原監督を「いいねえ。去年チームにいなくて、北の方から今シーズン新加入した背番号10の助っ人外国人選手かい?」と驚かせ、オープン戦の連日の活躍には「もうひとり、中田が欲しいね」なんて言わしめた。緊急入団の経緯からもどこか虚ろで所在なさげだった昨年とは違い、2年目の秋広優人が自主トレ同行を志願するなどチームにも馴染みつつある(結果的に秋広の勇気は中田を救ったとも言える)。3月16日の中日戦では岡本に代わり4番に座ると、3号3ランを含むチーム全得点を叩き出す4打点と大暴れ。
数年前、岡本欠場時に代役4番を務めた阿部慎之助の引退後は、チームの課題でもあった背番号25のサポート役に、3度の打点王と通算264本塁打の実績を持つスラッガーは適任だろう。岡本和真の後の5番か、もしくは恐怖の6番打者か。オフはFA補強をしなかった巨人だが、中田翔の復活が最大の補強といっても過言ではない。
昨季の巨人はとにかく新外国人選手に泣かされた。テームズはデビュー戦でアキレス腱断裂の重傷でリタイア、スモークは母国の家族と会うため6月に退団、その代役のハイネマンもわずか10試合の出場で帰国……とことごとく計算が狂った。実質、戦力になった外国人野手はウィーラーのみ(121試合 打率.289 15本塁打 56打点)である。打線の迫力不足は否めず、結果的に“岡本依存”を強く印象づけてしまった。
それが今季はオープン戦後半から、「3番右翼ポランコ、6番DHウィーラー、7番左翼ウォーカー」が並ぶオーダーをテストできている。メジャー96発男のポランコには、巨人自前助っ人選手としては86年のクロマティ(37本)以来の30本塁打以上が期待される。見えない高速スイングの前評判も実は打席でボールが見えなかっただけだったセペダ、打撃練習で特大アーチを連発して「男は黙ってフランシスコ」なんて謎すぎるタツノリコメントが虚しく響いたフランシスコといずれも“クロウの壁”は高かった。推定年俸2億5000万円の大物ポランコが36年ぶりのクロウ越えに挑む。
次世代ローテの中心を担える若手投手の台頭、4番岡本の負担をワリカンできるスラッガーの存在、さらには外国人パワーヒッターの定着―――。それらのチームの3つの課題をクリアできたとき、原巨人のV奪回、さらには10年ぶりの日本一もぐっと現実味を帯びて来るだろう。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)
若大将・原辰徳もすっかり大御所の風格だ。気が付けば、バトンを引き継いだ長嶋茂雄監督が勇退した65歳も目前である。19年に3度目の巨人監督復帰後は、いきなり連覇を達成。しかし、昨季は勝率5割を切り首位ヤクルトに11ゲーム差の3位に終わった。激しいV争いによる3位ではなく、終盤に10連敗を喫する完全な息切れによるギリギリのAクラス確保である。
エース菅野智之は万全の状態には程遠く、4度の登録抹消を繰り返し6勝に終わり、シーズン途中に米球界から復帰した山口俊も15試合に先発して防御率3.56と最低限の仕事はしたものの、2勝8敗と勝ち星から見放された。19年は獅子奮迅の活躍で投手三冠の山口、20年は開幕13連勝でMVPの菅野と原巨人V2の立役者はそれぞれ彼らだった。
しかし、この二本柱が不調だった昨季は勝負どころで先発ローテが手詰まりに。9月からスクランブルの中5日ローテも機能せず、クライマックスシリーズ最終ステージの対ヤクルト戦は2敗1分けであっさり敗退してしまったが、第4戦の予告先発は公式戦の先発経験がない高木京介だった。もはや投手運用は完全に破綻していたわけだ。
堀田賢慎、山崎伊織、赤星優志、抑え候補のドラ1剛腕・大勢
長年、大黒柱としてチームを支え自身8度目の開幕投手が決まっている菅野は今年33歳、日米球界を渡り歩いた山口も35歳になる。まだ老け込む年ではないが、当然数年後を見据えた次世代ローテ再編の準備が求められる。いわばチームとしてひとつのサイクルが終わりつつあり、新たなベースを構築する時期だ。キャンプからオープン戦にかけて、19年ドラフト1位・堀田賢慎(20歳)、20年ドラフト2位・山崎伊織(23歳)、21年ドラフト3位・赤星優志(22歳)の“令和の闘魂三銃士”が先発ローテ入りを目指して猛アピール。
さらに調整の遅れが心配された昨季11勝の高橋優貴(25歳)、9勝の戸郷翔征(21歳)らも逆襲のチャンスを伺う。コロナ禍でチーム合流が3月にズレ込んだ新外国人投手のアンドリースやシューメーカーは、まずは2軍での調整登板後の昇格が予定されており、若手投手たちにとっては開幕直後が生き残りへのアピール合戦になりそうだ。
それにしても1年前の開幕ローテにはサンチェスや井納翔一が名を連ね、4月頭の菅野の代役先発でマウンドに上がったのは野上亮磨だったことを思えば、急激な若返りである。同時にその「期待の若手枠」さえも世代交代した感がある。若手でいられる時間は短い。チャンスを逃し続ければ、次の若手がやってくる。もちろん右肘手術明けの堀田や山崎、プロ1年目の赤星にいきなり多くを求めるのは酷だろう。だが、クローザー抜擢の可能性もあるドラ1ルーキー大勢も含め、2022年シーズンは未来の巨人のターニングポイントになりそうな1年だ。「1年目に種をまき、2年目に水をやり、3年目には花をさかせる」という野村克也監督の有名な言葉があるが、オフに新たな3年契約を結んだ原監督が、投手整備をした上で後任にバトンタッチできるか注目である。
不動の4番・岡本のサポート役は背番号10
2年連続で本塁打と打点の二冠に輝いた岡本和真は、25歳にして不動の4番に定着した。その存在が大きいからこそ、昨年のCSのように負傷でスタメンから名前が消えただけで、破壊力も半減する(ヤクルトとの最終ステージ3試合でわずか2得点)。坂本勇人や丸佳浩は好打者だが、大砲タイプではない。となると、やはり期待されるのは背番号10のあの男、中田翔だろう。
20キロ増量して臨んだキャンプでは昨年とは別人のような柵越えを連発して、原監督を「いいねえ。去年チームにいなくて、北の方から今シーズン新加入した背番号10の助っ人外国人選手かい?」と驚かせ、オープン戦の連日の活躍には「もうひとり、中田が欲しいね」なんて言わしめた。緊急入団の経緯からもどこか虚ろで所在なさげだった昨年とは違い、2年目の秋広優人が自主トレ同行を志願するなどチームにも馴染みつつある(結果的に秋広の勇気は中田を救ったとも言える)。3月16日の中日戦では岡本に代わり4番に座ると、3号3ランを含むチーム全得点を叩き出す4打点と大暴れ。
数年前、岡本欠場時に代役4番を務めた阿部慎之助の引退後は、チームの課題でもあった背番号25のサポート役に、3度の打点王と通算264本塁打の実績を持つスラッガーは適任だろう。岡本和真の後の5番か、もしくは恐怖の6番打者か。オフはFA補強をしなかった巨人だが、中田翔の復活が最大の補強といっても過言ではない。
ポランコはクロマティ以来の30発の壁を破れるか?
昨季の巨人はとにかく新外国人選手に泣かされた。テームズはデビュー戦でアキレス腱断裂の重傷でリタイア、スモークは母国の家族と会うため6月に退団、その代役のハイネマンもわずか10試合の出場で帰国……とことごとく計算が狂った。実質、戦力になった外国人野手はウィーラーのみ(121試合 打率.289 15本塁打 56打点)である。打線の迫力不足は否めず、結果的に“岡本依存”を強く印象づけてしまった。
それが今季はオープン戦後半から、「3番右翼ポランコ、6番DHウィーラー、7番左翼ウォーカー」が並ぶオーダーをテストできている。メジャー96発男のポランコには、巨人自前助っ人選手としては86年のクロマティ(37本)以来の30本塁打以上が期待される。見えない高速スイングの前評判も実は打席でボールが見えなかっただけだったセペダ、打撃練習で特大アーチを連発して「男は黙ってフランシスコ」なんて謎すぎるタツノリコメントが虚しく響いたフランシスコといずれも“クロウの壁”は高かった。推定年俸2億5000万円の大物ポランコが36年ぶりのクロウ越えに挑む。
次世代ローテの中心を担える若手投手の台頭、4番岡本の負担をワリカンできるスラッガーの存在、さらには外国人パワーヒッターの定着―――。それらのチームの3つの課題をクリアできたとき、原巨人のV奪回、さらには10年ぶりの日本一もぐっと現実味を帯びて来るだろう。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)