コラム 2022.04.18. 20:01

ロッテ・佐々木朗希の“完全降板”と時代の波【白球つれづれ】

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ロッテ・佐々木朗希 (C) Kyodo News

白球つれづれ2022~第16回・大記録目前の降板劇に見る球界の新常識


 この2週間、球界には「佐々木旋風」が吹き荒れている。

 4月10日のオリックス戦で完全試合を達成したロッテの佐々木朗希投手が17日の日本ハム戦でも、世界初の2試合連続パーフェクトを目前にした8回でマウンドを降りた。

 17イニング連続無安打は日本新、25イニング連続奪三振は山本由伸(オリックス)に並ぶ偉業ではある。それでも井口資仁監督は中6日のローテーションを守って1年間投げ続けることを大前提に非情の決断を下した。

 確かに終盤の投球はストレートに“抜け球”が多く、疲労がにじみ出ていた。何より打線の援護があれば、世紀の大記録が見られたかも知れない。いずれにせよ、大記録目前の降板劇は今後も語り継がれていくだろう。

 18日付のスポーツニッポンでは興味深い数字が紹介されていた。

 「あなたは快挙前の降板についてどう思いますか?」と言う設問に対して、「賛成」が75.5%、そのまま続投させるべきという「反対」が12.7%で「どちらとも言えない」が11.8%。意外なほど、ロッテベンチの決断を認めている。中には「佐々木投手の完全試合を阻止できるのは、もう井口監督だけだな」と洒落たコメントまであった。


 佐々木朗と言えば岩手・大船渡高3年の夏、県大会決勝の登板回避があまりにも有名だ。

 当時の国保陽平監督は、まだ成長痛も抱える佐々木の肉体面と将来を考慮して、エース不在の大一番を決断している。結果、甲子園行きの野望は潰えた。

 ロッテ入団後も「3年計画」で英才教育は施されてきた。

 1年目は一軍に上がることなく肉体強化。2年目は中10日以上の登板間隔を空けて先発させている。そして、今季は中6日でローテーション入り、それでも投球数は100球をメドに慎重な姿勢を崩していない。あくまで長丁場のペナントレースを逆算すればここで、無理使いするわけにはいかないのだ。

 佐々木朗の快投が注目を集めた同日、ヤクルトでは高橋奎二投手の一軍登録抹消が決まった。今季、早くも2勝を上げる左腕エースに故障が発生したわけではない。蓄積する疲労を考慮して、一度登板間隔を空けるための措置だと言う。

 高津臣吾監督と言えば、日本一に輝いた昨年も、中継ぎ投手に3連投をさせないなどやりくり上手で弱体と言われた投手陣を再生させた。今季は巨人の桑田真澄投手チーフコーチが同様の方式で、若手投手の起用法に工夫を凝らしている。

 佐々木のルーキー時代の教育係は吉井理人投手コーチ(現ピッチングコーディネーター)であり、高津監督、桑田コーチも共にメジャーリーグ経験者である。球数制限の厳しさや、体調面の管理などメジャー流の選手育成は今や球界の新常識と言っていい。


高校野球でも投手の"将来"を守る流れへ


 佐々木朗の育成法は高校野球の変革とも無縁ではない。

 古くから、春夏の甲子園大会では一人のエースがマウンドを守るのが「美学」として捉えられ、数々のヒーローを誕生させてきた。

 2006年夏の早稲田実高・斎藤佑樹投手(前日本ハム)は田中将大投手(現楽天)擁する駒大苫小牧高を相手に延長15回引き分け再試合の末に優勝。

 この大会で斎藤の投じた948球は今でも最多投球記録である。18年夏には金足農高・吉田輝星投手(現日本ハム)が6試合で881球を投げ、ピッチャーの肩、肘の酷使問題に一石を投じる。

 その後の議論を経て、佐々木の県大会決勝登板回避もあり、日本高野連は20年から1大会の投球総数を1週間で500球までとする規約改正を行ったのだ。

 かつては無制限だった延長戦も、18回、15回と改正を重ね現在の延長13回からはタイブレーク方式が採用されている。これも投手の肩、肘の負担と選手の肉体面を考慮したものである。

 現在の高校生投手で150キロを超すストレートを投げる投手は珍しくない。ウェートトレーニングの発達により筋力はアップしている。一方で「腕も折れよ」の大量投げ込みが減った分、本格的な体作りはプロ入り後になる事は多い。佐々木朗もまさにそんな一人だ。

 8回、102球の降板が正解だったのか? 不正解だったのか?

 いずれにしろ「怪物中の怪物」を証明したことは確か。こんなヒーローを預かる指導者も楽ではない。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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