白球つれづれ2022~第18回・楽天を劇的に変えた西川遥輝の大活躍
「ハルキスト」の歓喜と興奮が続いている。
ゴールデンウィーク幕開けとなった仙台で楽天・西川遥輝選手の快進撃が止まらない。
3年ぶりの満員札止めとなった4月30日の楽天生命パークでのソフトバンク戦。4点ビハインドの9回二死から逆襲は始まった。1点を還し、なお二死一・二塁。相手・守護神、イバン・モイネロの快速球を西川が劇的な同点3ラン。延長11回も二死から西川の四球を機にチャンスを広げて、最後は浅村栄斗選手の右越え打でサヨナラの決着をつけた。
この試合で西川は2安打・5打点。翌1日の同カードでも3回に先制適時打を放ち、6回降雨コールドゲームの勝利に貢献している。西川を応援する通称「ハルキスト」たちがご機嫌なのは言うまでもない。
5月1日現在、打率.337、5本塁打、22打点はチーム三冠。それだけではない。「12球団一の選球眼」といわれる23四球はリーグトップタイ、得点圏打率は5割に達し、出塁率(.477)と長打率(.605)までリーグトップだから恐るべき数字だ。
脅威の一番打者がチームを引っ張る。いや、首位を走る楽天というチームを劇的に変えたと言っていい。
端的な数字がある。現在7盗塁の西川に触発されたようにチーム盗塁数は21でリーグ2位。昨年まで4年連続でリーグワーストの盗塁数は楽天の泣き所でもあった。昨年のシーズンを通して45個の盗塁が今季は5月の初旬で半数近くまで達しているのだから、変身ぶりがわかるだろう。
沖縄キャンプでは走塁の“臨時コーチ”に指名され、盗塁王4度の走塁術を惜しげなく伝授。「イーグルスに入ったからには少しでもチームのために貢献したい」と語っている。
優勝を狙うためには、もう一つのウイークポイントだった「一番打者」にも西川の加入は大きい。出塁率が高く、盗塁も期待出来る。一発もある。最強の切り込み隊長を得て、組織全体が活性化を果たしている。
原点回帰で取り戻した野球の喜び
もう一度、泥臭く、がむしゃらに。好調・西川の要因は原点回帰から始まった。
昨年11月に日本ハムから「ノンテンダー」の宣告。チームの顔として本社CMにも起用されてきたスターのプライドはずたずたに切り裂かれる。要は組織にとって不要の烙印を押された実質上の自由契約だった。
前年からポスティングによるメジャー挑戦を表明したが、買い手がつかずに不成立。そんなモヤモヤも手伝って打撃成績は振るわなかった。
紆余曲折の末に楽天入団が決まったのは12月下旬のこと。2億4千万円の年俸は8500万円(推定)まで下がったが、入団会見の席では、再び、野球をやれる喜びを語った。
「ある程度、経験を積んでくるといろいろなプライドが邪魔することもある。(今回の一件は)そうしたすべてを取っ払ってくれた。人として、選手としてまたレベルアップできる機会をいただいた」
オフには、これまで以上の走り込みと打ち込みを自らに課している。がむしゃらな原点回帰が西川の復活を後押ししている。
もちろん、男の意地もある。古巣の日本ハム戦には.364の高打率を残し、特に札幌ドームでは.455と打ちまくっては、ハムの関係者も胸中は複雑だろう。
「塁に出ることに特化した素晴らしい才能を持つ選手」と獲得にゴーサインを出した石井一久GM兼監督でも、ここまでチームの弱点解消に大貢献してくれるとは思わなかっただろう。想像以上の移籍効果である。
過去に大物選手の移籍は何度もある。トレードを機に大化けした選手もいる。
しかし、年俸1億円がスター選手の最低条件の時代に、これほど安価で、これほど効率よく「はまった」選手は皆無に近い。
今月13日発表予定の月間MVPパリーグ野手部門での受賞も当確。
この勢いが続くようなら史上最高の移籍劇として名を刻むことだろう。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)