第2回:予想以上の速さで弱点を露呈した若手投手陣
巨人・原辰徳監督の顔から笑顔が消えて久しい。
開幕から4月までは20勝11敗。昨年の雪辱を果たすような快進撃には「V率100%」の活字が躍った。しかし、5月の声を聞くと急降下。12日現在(以下同じ)1勝7敗で移動日の11日には中日と入れ替わりで4位にまで転落した。まだ、40試合近くを消化した時点であり、首位・広島とは僅差なら悲観することはない。しかし、投打の歯車が狂い、最初の正念場に差し掛かっているのは間違いない。
前回でも触れたようにチームの大黒柱である菅野智之、坂本勇人両選手の戦列離脱に、1番打者として目覚ましい活躍を見せていた吉川尚輝選手までが負傷による登録抹消によってチームの骨格が崩れた。
さらに、予想以上の速さで弱点を露呈したのが期待の若手投手たちだ。
3月31日のヤクルト戦で3年目の堀田賢慎がプロ初勝利を上げると、その後に戸田懐生、赤星優志、大勢、平内龍太、山﨑伊織と6投手が初勝利を記録した。1カ月で6人の初勝利は史上初の快挙でもあった。
ルーキーの大勢や赤星だけでなく、かつてのドラ1や育成から這い上がった苦労人もいる。今季のチーム大方針である「育成と勝利」を象徴する滑り出しだった。
しかし、勝負の世界は厳しい。5月に入ると赤星が、堀田が打ち込まれて2軍降格。クローザーとして獅子奮迅の働きを見せてきた大勢も8日のヤクルト戦で初黒星を喫している。
3~4月に上げた20勝のうち新戦力の6人で7勝(赤星が2勝)をマーク、チームの1/3以上の勝利に貢献。この間のチーム防御率3.11はリーグトップだったが、現在は同3.56で5位まで転落している。投手陣の再整備はチームにとって急務である。
勢いの4月。脆さの5月
球界にも昔から“五月病”は存在する。開幕から1カ月余。最初の疲れが出だす頃だからだ。特に若手選手にとっては自主トレ、キャンプからオープン戦とアピールを続けなければ生き残れないからなおさらである。加えて、対戦を重ねるごとに相手選手からは特徴や配球パターンまでを研究される。ここが、年間を通してローテーションを守れるか、否かの分岐点。ダメなら淘汰されるのがプロの掟でもある。
近年の巨人投手陣と言えば、若手の伸び悩みが指摘されてきた。ドラフト1位だけでも鍬原拓也に堀田、平内らが2軍、3軍で苦闘を続けている。そこに風穴を開けたのは桑田真澄投手チーフコーチである。
彼らの故障もあるが、既存の先発陣にトレードやFA、そして外国人選手も加入するから出番は限られてきた。そこにチームの育成方針もあり、桑田コーチの熱心な指導と意識改革によって若手にチャンスが巡ってきた。
「今のジャイアンツは育てながら勝っていかないといけないチーム状態。シーズンは長いので状態の良い選手を起用しながら根気よく育てる。経験を積ませながら育てていくと言うことを1年間、継続してやっていきたい」と桑田コーチは苦しくなってきた投手陣にも「辛抱の時」を強調する。
しかし、チーム状態がいい時は、多少の若さやミスにも目をつぶることが出来るが悪くなると、そんな余裕はなくなる。
端的な例は8日のヤクルト戦に見られた。
昨季11勝を上げ、更なる成長が期待される髙橋優貴投手が5回途中で制球を乱すと、原監督は即交代令を出している。ゲームは1対1同点の場面。桑田コーチからすれば、自ら招いたピンチをしのいでこそ成長につながると言う思いがある。だが、指揮官は「勝負所であんなコントロールでは」と交代を決断した。この場面こそ、「育成」と「勝利」の葛藤があったはずだ。
若さとは、勢いをチームにもたらす反面、経験値が少ない分、脆さも同居する。勢いの4月。脆さの5月。それが巨人の現状と言っていい。初勝利を上げた6人全員がシーズンを終えた時に好成績を残すとは考えにくい。この中で何人が1軍に残って、貴重な戦力に育っていくか?
「逆風だって、船は前に進むんだ」。苦境を前にした原監督の言葉である。
「育成」の象徴であるヤング投手陣に最初の試練がやってきた。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
※「首位快走、それでも曲がり角に立つ巨人」の月間タイトルを変更しました。ご了承ください。