コラム 2022.06.13. 07:08

至高のリアル系野球ゲーム!フジテレビと強力コラボも話題の『熱チュー!プロ野球』シリーズ

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選手特徴の表現は野球ゲーム史上屈指だった「熱チュー!プロ野球」

野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第7回:熱チュー!プロ野球


 サッカーの日韓ワールドカップ開催から20年が経った。

 「ワールドカップのチケットが手に入らない」とカップヌードルのCMでジダンが地団駄を踏み、カメルーン代表は本当に中津江村に来るのか……なんて盛り上がった2002年春、ゲーム業界でもウイイレ旋風が起きていた。




 4月25日にコナミからPS2用ソフト『ワールドサッカーウイニングイレブン6』が発売。累計100万本超えの大ヒットとなる。

 上半身裸のゴン中山が大会公式球フィーバーノヴァを脇に抱えたパッケージと、オープニングムービーで鳴り響くクイーンの『ウィー・ウィル・ロック・ユー』を覚えている人も多いだろう。

 真夜中に誰かの家に集まってやるウイイレ大会。自主トレはマスターリーグで地道にCBフォルネンダーの相棒探し。気が付けば皆、ゲーム経由で実在の選手を片っ端から覚えていった。あの頃、海外サッカーブームを根っこで支えていたのは、ウイイレだったのである。



サッカーバブルの中で発売されたナムコの野球ゲーム


 さて、日本列島がそんなサッカー熱で浮かれていた02年4月18日、一本の野球ソフトが世に出る。PS2の『熱チュー! プロ野球2002』(ナムコ)である。

 当時は『劇空間プロ野球』(スクウェア)に『セ・パ2001』(コーエー)、『マジカルスポーツ2001プロ野球』(魔法)など、各社からリアル志向の野球ゲームが相次いで発売されたが、やはり『パワプロ』のシステムを踏襲しつつ、グラフィックは現実の選手に寄せたコナミの『プロ野球JAPAN 2001』が頭ひとつリードしていた。

 そこにプレイステーション2本体の発売から約2年を経て、あのファミスタシリーズのナムコが満を持してリアル系野球ゲームに参戦したわけだ。

 ファミスタvsパワプロで激しく90年代野球ゲームの頂点を競った両社が、21世紀でも再び激突する。果たして、94年のパワプロの出現で王者の座を奪われた形のファミスタが、今度はPS2でリベンジできるのか……?


マウンド度胸、ダッシュキャッチ…独自のこだわりの数々


 事前にアーケード版を稼働させ、多くの野球ファンが注目した『熱チュー! プロ野球2002』だが、期待を裏切らない良作だった。

 いや、期待以上の傑作と言っても過言ではない。全盛期の松坂大輔(西武)の浮き上がるようなストレートを体感できる球筋の再現性や、翌年にヤンキースへ移籍する松井秀喜(巨人)のパワーSから放たれる打球の速さといった選手特徴の表現は、野球ゲーム史上屈指と称された。

 投手には、画面上に表示される球種や球速以外にも「マウンド度胸」や全5タイプの「バイオリズム」というパラメータが存在。得点圏に走者を背負った際にギアが上がる選手もいれば、制球が乱れるケースもある。

 1試合の中で立ち上がりが課題の“序盤不安”や、60球前後で乱れだす“中盤不安”など、投手によってウイークポイントが違ってくる細部のこだわりがあった。


 もちろん、打者にも打撃成績以外に「センター中心型」「流し型」「ひっぱり型」「ノーマル型」とパラメータが分類され、チャンスでの強さや選球眼、左右投手への相性等も実際のデータをもとに設定。プレーヤーは試合展開を読みながら、打球の角度が上がるパワースイングとヒットエリアが広がるコンパクトスイングを使い分ける。

 守備面では、ダイビングキャッチの成功率も守備力S~Eの選手で細かく変動。さらに捕球前にボタンを押す新概念“ダッシュキャッチ”を取り入れ、ダッシュからのスローイングで送球に10%増の威力が出る。

 これにより、タッチアップ時にはわざと後ろに下がり、勢いをつけて捕球してバックホームというリアルなムーブが可能になったのだ!……って、もはやジャパネットたかたの通販番組のようになってきているが、これだけ機能がついてお値段はたったの6800円。走者の脚が速すぎて内野安打連発や盗塁成功率が高いという惜しい欠点もあったものの、異様な作り手の熱意を感じる狂気の仕様に野球ファンは度肝を抜かれた。


フジテレビのナイター中継と同じ「熱チューくん」システム


 そして、このゲームの最大のウリは、ストライクゾーンを9つのエリアに分割して、赤(得意)・黄(普通)・青(苦手)に塗り分けられた打撃スコープの実装である。現実さながらの投打の駆け引きを可能にしたこのスコープは、全360名の登録選手ごとに設定された。

 これはフジテレビ系列の野球中継『熱チュー!プロ野球2002』で、実際に導入された投打の攻防をシミュレートする「熱チューくん!」システムと同じもの。小学館から発売された公式ガイドブックによると、「テレビ中継とゲームのみごとなコラボレーション」と紹介されている。


 「(熱チューくん!は)投手・打者ともに、豊富にインプットされたデータから検索し、「次の1球をあのコースに投げたら」、「あのときの1球がほかのコースだったら、結果はどう変わっていたか」など、ファンなら誰もが知りたい内容を、実際の傾向に即した高い精度で予測することができるのだ」

 コナミの『THE BASEBALL 2002 バトルボールパーク宣言』は日本テレビとタイアップしていたが、『熱チュー!プロ野球2002』はフジテレビとタッグを組んだ。

 しかも、タイトルの名義貸しとか看板女子アナの実写を取り込むとかそんなレベルではなく、実際の野球中継とデータ連動したガチンコのコラボだったのである。

 当時のフジテレビの野球中継webページにも「ナムコとフジテレビで開発したPS2ゲームソフト『熱チュ-プロ野球』が中継内で登場します。このソフトの特徴である過去のデータに基付く選手攻略法がリアルタイムで登場します」と説明があるように、試合中にゲーム画面が紹介されることもあった。本作実況担当の三宅正治アナは分厚い原稿を渡され、3~4日間缶詰めになって膨大な音声収録に臨んだという。


「プロスピ」とガチンコのシェア戦争へ


 その『熱チュー!プロ野球』の世界観は好評で、翌03年には東京ドームで試遊イベントも開催した春の開幕版だけでなく、10月にも最新データの「秋のナイター祭り」版をリリースした。

 投手操作時に選択できるようになった野球中継カメラ視点も好評で、開幕版の年間売上げ本数ランキングでも約28万本とリアル系野球ゲームではトップに君臨(野球ゲームでは『パワプロ10』に次ぐ2位)。コナミの『THE BASEBALL 2003 バトルボールパーク宣言 パーフェクトプレープロ野球』を上回ったが、迎えた翌04年3月25日に事件が起きる。

 『熱チュー!プロ野球2004』と、コナミの仕切り直しの新シリーズ『プロ野球スピリッツ2004』が同日発売されたのである。価格も同じ6800円。記念すべきプロスピ1作目の歴史はライバルへの宣戦布告で幕を開けたわけだ。

 なお、仁義なき発売第1週の売上げランキングでは2万922本対3万6937本でプロスピに軍配。先手を取ったプロスピは秋にも最新データのクライマックス版を発売するなど、以降リアル系野球ゲームの雄として君臨する。


 プロスピのシステムはパワプロをほぼ踏襲しているのでテンポ良くプレーできたが、皮肉なことに『熱チュー!プロ野球』はリアルすぎて、プレーヤー同士の駆け引きも多く試合が長引きがちだった。独特な操作性も練習が必要で、プロスピの方が初心者含め敷居が低かったのは否めない。

 ライバルとの直接対決に敗れ、『ベースボールライブ2005』への改題を経て、バンダイナムコゲームズに生まれ変わった06年にはフジテレビナイターとのタイアップも解消。『熱スタ』としてリスタートを切るが、07年4月5日発売の『プロ野球 熱スタ2007』がシリーズ最終作となった。


シリーズ大トリを飾った力作『熱スタ2007』


 しかし、だ。このラストを飾った『熱スタ2007』が傑作なのである。

 プレー面では投手のシビアなリリース感覚が求められる「ライブピッチ」が話題に。ゲームモードは、GMポイントを使って球団運営を行う「ドリームリーグ2007」、おなじみのプロ野球選手の1シーズンを体験できる「アスナロDASH!」に加え、1人の選手の引退までをプレイする「ジンセイ」モードではトレード志願や最大3回まで行える契約交渉まで再現。もちろん成績が悪ければ解雇され、他球団からオファーがなければ現役引退というシビアな仕様だ。

 伝説の名選手たちと対戦できる「タイムスリップ」や、手軽にオリジナル選手を作成できる「アレンジ」も健在で、シリーズ総集編的な豪華さを誇っている。


 その上、ファミスタ1作目が発売された86年から「野球ゲーム21周年の2in1」と題し、最新データ版の復刻「ファミスタ2007」まで搭載。これがまた素晴らしい出来映えなのである。

 前作の熱スタに収録されていたファミスタモードはホームランが異様に出やすいアバウトな作りだったが、ゲームバランスを見直して再収録する念の入れようだ。しかも、2022年の今やると、「07年選手データのファミコン版ファミスタ」という時代がふた回りくらいしてたまらなくエモい風景が再現できる。

 ついでに、ファミスタチャレンジモードを一定条件でクリアすると、他のモードで隠しチームのリアル版ナムコスターズも使用可能に。まさに『熱スタ2007』はナムコの野球ゲーム集大成ともいえる大作である。





 確かに野球というスポーツを追究したリアルかつシビアな「熱スタシリーズ」は気軽に友達と対戦できるゲームではなかったかもしれない。でも、ひたすらやり込むにはこれほど手応えのある野球ゲームは他になかった。

 20年前の6月、大学の友人たちとのウイイレ対戦で盛り上がり、一方で空いている時間にはコーラ片手に『熱チュー!プロ野球2002』でひとり遊んでいた記憶がある。今思えば、幸せな時間だった。

 サッカー日韓ワールドカップから20年。それは同時に至高のリアル系野球ゲーム『熱チュー!プロ野球2002』発売から20周年でもある。


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)
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