第2回:短期間に投手王国を築き上げた西武
「投高打低」現象は交流戦になっても止まらない。
7日の日本ハム対DeNA戦では、今永昇太投手が日本ハム打線を手玉に取ってノーヒットノーランを樹立。4月にロッテ・佐々木朗希がオリックス戦に完全試合、5月にソフトバンク・東浜巨が西武戦でノーヒットノーランに続いて3カ月連続の快挙である。
翌8日には西武が巨人を相手に「準完全試合」を達成している。
先発の與座海人投手が7回を1安打、この走者も併殺に打ち取り、8回は平良海馬、9回を増田達至とつないでリレー完封、打者27人を3投手継投で「準完全」は史上初の事だと言う。
西武と言えば強打を売り物とするチームだったが、今や投手王国に変身している。
この巨人との交流戦が投手陣の充実ぶりを物語っている。初戦はスコアこそ9-4と打撃戦の様相を呈しているが、序盤に4点を許した苦しい展開の中で二番手・宮川哲投手の踏ん張りが流れを変えた。6回に逆転すると、水上由伸、平良、増田の必殺リレーで巨人打線に付け入る隙を与えない。
ちなみに8日現在(以下同じ)のチーム防御率2.51は12球団トップ。山川穂高選手が一人気を吐く打線は.224でリーグ5位だからBクラスに甘んじているが、得点力がもう少し上がっていけば、上位と肉薄も決して夢ではない。
新人の活躍でチーム内競争が激化
2018、19年とリーグ連覇を果たして以来、覇権から遠ざかっている。
当時の西武は今と真逆のチームだった。19年を例にとればチーム打率(.265)はリーグトップ。首位打者に森友哉、本塁打王に山川、打点王に中村剛也、さらに最多安打のタイトルを秋山翔吾選手が獲得するなど打撃タイトルを総なめにする一方で投手陣はチーム防御率4.35でリーグ最下位。そんなバランスの悪さがチームの弱体化につながった。
「これまでは打線に“おんぶにだっこ”だったが、これからは投手がチームを支えていくようにしたい」。当時の渡辺久信GMはこう誓っている。
髙橋光成、松本航、今井達也と将来性豊かなエース候補はいるが、それでも先発要員の層は薄い。外国人で4人目は埋まっても第5、第6の先発候補は手薄だ。加えて、近年は深刻な左腕不足に泣かされ、昨年は左腕で2勝しか上げられていない。
このあたりの苦労はドラフト戦略からも読み取れる。19年の浜屋将太、20年の佐々木健投手はいずれも左腕で2位指名。彼らが伸び悩むと昨年は隅田知一郎、佐藤隼輔の即戦力左腕を1、2位で獲得。このルーキーたちが一軍の戦力になる事で「化学反応」が起こった。
新人の活躍でチーム内競争が激化する。一軍枠に生き残るためにも成績を残さなければならない。これまでチームのお荷物的存在だった弱体投手陣が見事に生まれ変わった。
“必勝方程式”の水上、平良、増田はいずれも防御率が0点台、さらにそのわきを固める本田圭佑、平井克典、ボー・タカハシらも1点台と抜群の安定感だ。ここに故障やコロナ禍で戦列を離れる今井、松本の先発陣が戻れば投手陣に不安はない。
今季のパリーグはオリックスの吉田正尚選手が故障で出遅れ、ソフトバンクの柳田悠岐選手が本調子に遠いなど各チーム主力打者の不振が打低に拍車をかけている。どのチームにも抜け出す要素は少ないから、夏場以降も混戦が予想される。
開幕以来、勝率5割ラインを行ったり、来たりの西武にもまだチャンスはある。充実の投手陣を武器にどこまで勝ちパターンのゲームを作れるか。
かつて、“大魔神”佐々木主浩のいた横浜や、近年では阪神のロベルト・スアレス投手ら絶対的な守護神のいるチームでは終盤までリードしていれば盤石の戦いを演じてきた。逆に相手側にすれば終盤を前にリードしていなければ勝機ゼロとなる。強力投手陣とは、それだけチームに落ち着きを与え、白星の計算がたつものだ。
短期間に投手王国を築き上げた西武。投高打低の今季に気になる変身ぶりである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)