コラム 2022.06.13. 07:26

女子野球界のレジェンド右腕 磯崎由加里の新たな挑戦…次世代に残すものとは

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2022年シーズンから「はつかいちサンブレイズ」に加入した磯崎由加里投手[写真=別府勉]

日本代表で活躍…新天地は広島で


 ワールドカップで6連覇という偉業を達成している日本の女子野球。そのマドンナジャパンのメンバーとして活躍してきた磯崎由加里投手(30)は現在、広島にある女子硬式野球の企業チーム、はつかいちサンブレイズでプレーしている。

 サンブレイズに入団する前は女子プロ野球の埼玉アストライア(2015年~2019年)に所属。リーグ運営に苦しんできた女子プロ野球界を長年支えたレジェンドでもある。

 アストライアを退団後、2020年から企業チームのエイジェックに入団するが「ケガとかいろいろありまして、2年目に入るときに今年でこのチーム(エイジェック)は最後にしようと決めていた」という。

 エイジェックにいた最後の1年間で磯崎は「(来年から)現役を続けるのか、指導者という道に進むのか、野球とまったく関係のない仕事をするのか、いろいろな選択肢を考えて1年間プレーしていて、一旦は野球ではない道を考えていた」と、当時の心境を振り返る。

 それでも、「いつも野球を考えている自分がいて、プレーヤーとしてもそうですけど、やっぱり野球に携わることはしたい」と決心。アストライアでチームメイトだった岩谷美里(現サンブレイズ初代監督)から打診を受け、選手としてはもちろん、新チームのまとめ役としての期待も背負うことになる。


「最強」の投手陣にするため、経験を伝える


 「一からつくっていくチームというのは初めてのことで、新たな挑戦。いろいろな経験をしながらチームをつくっていくという意味では、いままで経験したことのないことが、ここでできるかなと思い、(サンブレイズに)入団したいなと思いました」

 磯崎のほか、外野手の西山小春、捕手の村松珠希など、女子プロ野球出身者も多いサンブレイズ。岩谷監督兼選手は「女子プロ野球をやってきた人は、何かがズバ抜けてできていなければいけない」と話す。

 チームには4人の投手がいるが、ケガの影響を抱えている投手もいる。岩谷監督は磯崎に対して「日本代表を経験している選手ですし、プロで経験したこと、そういうのも伝えていってほしい。トレーニングのやり方や身体のこと、本人もケガが多くて苦しい経験をしている。(若い選手は)自分の身体と向き合えていないことも多い」と話し、言葉だけでなく「背中で示してほしい」と願う。

 磯崎は「(若い投手は)これから伸びていく、将来性のある選手が多い。一緒にやりながら自分も学ぶことがすごくある。4人で最強のピッチャー陣をつくっていきたいなと思っていて、その先陣を切りたいなと思っている」と、抱負を語る。

 さらに、「私も肘の手術を2回している。どの痛みが本当にストップしたらいいのか、多少の痛みならトレーニングをしながらやれることもある。(リハビリなど)自分の経験でやってきたことを基に、話しをしながらやっています」と、若い選手との会話を大切にし、自身の経験を伝えている。

 また、練習中は気を抜いたプレーをすることがないように心がけている。それは、若手の見本としてだけでなく、普段の練習が試合にもつながることがわかっているからだ。

 磯崎は「どうしても隙というのがまだ多い」と、チーム状態を分析する。「最初から隙を相手に見せない野球」。これが、チームを強くしていく基礎になっていくと信じている。



女子野球の未来を担う選手たちへ


 今年4月に発足したサンブレイズは、中国地方の女子硬式野球チームによるリーグ戦である「ルビーリーグ」に参加。6月25日には環太平洋大学との試合が予定されていて、この大学の出身者にはチームの4番に座る内野手の田中愛莉がいる。

 岩谷監督から「力があるから、シングルヒットを余裕で打っちゃう」と言わしめた22歳のスラッガーは、自身でも「ホームラン(打者)を目指している」と話し、「(サンブレイズに入団し)勉強になることが多い。元プロの方とか、同級生もいて毎日楽しく勉強しながらやらせてもらっています。4番を打ち続けられるように頑張りたい」と、決意をにじませる。

 今後はクラブ選手権も予定されていて、全国の強者との戦いが待ち受ける。そんな大舞台では、田中のように若い伸び盛りの選手を、磯崎のような経験豊富な選手が精神的な柱となり支えていく。

 さらに、磯崎の持ち味である「ナイアガラカーブ」がチームを勝利へと導く。

 このカーブの原点は2012年の国際大会(ワールドカップ)。日本代表に選ばれた当時は大学生(尚美学園大学)で、代表監督を務めていた新谷博氏(元西武、日本ハム)からのすすめで落差のある緩いカーブを習得。磯崎は決勝戦でアメリカ打線を抑え込み、3連覇に大きく貢献して大会MVPにも輝いた。

 「誰にも真似できない球を投げたい」。大学時代に編み出したカーブは、女子プロ野球の舞台で真価を発揮。日本女子プロ野球機構スーパーバイザーを務めていた太田幸司氏(元近鉄)が「ナイアガラカーブ」と命名し、磯崎にとって欠かせない武器となった。

 探究心が強く、変化球を「遊びながら試すのも好き」という技巧派右腕。緩急をつけ、相手打者を幻惑する投球は、磯崎のピッチングスタイルだ。そして、彼女は自身の代名詞でもあるカーブの投げ方を、若い投手に惜しみなく伝授している。

 サンブレイズの背番号「11」は、次代を担う若い選手たちと共に、広島から女子野球の魅力を発信していく。そして、日の丸のユニフォームに再び袖を通すことを目標とし、野球人として成長させてくれた舞台で、自慢の投球術を見せつける。


取材・文・写真=別府勉(べっぷ・つとむ)


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