最終回:セは「打高投低」、パは「投高打低」の傾向が顕著に
「投高打低」現象に異変あり?
ヤクルトが驚異のペースでペナントレースを快走している。
6月29日の広島戦も快勝して、カード別の連続勝ち越しは14まで伸びた。これは1954年に南海(現ソフトバンク)が記録して以来、実に68年ぶりのこと。29日現在(以下同じ)2位巨人とは12ゲーム差、まさに記録的な独走である。
セ・パ交流戦の優勝で弾みをつけたチームは、ペナント再開後も9勝2敗と手がつけられない勢い。中でも主砲の村上宗隆選手は、6月だけで14本塁打、35打点の猛爆ぶりだ。その村上に引っ張られるように打線全体に火が付き、交流戦後の11試合で90得点、1試合平均は8.18点だから、「投高」どころではない。
一方で、パリーグでは西武の「堅守」が注目を集めている。
今季の西武は、これまでの打線中心から大きく変貌。先発、中継ぎ、抑えとすべての投手陣がレベルアップを果たしている。29日の日本ハム戦も6-2で快勝して今季初の5連勝、首位のソフトバンクに2.5ゲーム差まで肉薄している。
この間の戦いを振り返ると12試合連続で3失点以下の試合を続けている。こちらは、前身の西鉄時代の65年以来57年ぶりの球団記録だと言う。
交流戦後の10試合に8勝2敗と上昇気流に乗るチームの総失点はわずかに15。先発が最少失点で踏ん張れば、7回以降は水上由伸、平良海馬、増田達至3投手による盤石の方程式。1試合平均1.5失点なら負ける要素は少なくなる。立派な「投高」ぶりである。
交流戦が始まった頃、球界では「飛ばないボール」問題が話題を呼んだ。
6月19日時点でセ、パ共に本塁打数が激減。前年と比較して年間で250本以上本塁打が減少すると言うデータも示された。
プロの統一球は反発係数が0.4034~0.4234の範囲と定められ、各期球場納品時には抜き打ち検査も行われている。だが、反発係数の上限と下限では飛距離にして4~5メートルの違いが生まれる。
MLBでも今季から「飛ばないボール」が導入されて本塁打数は激減している。これが「投高打低」を生む主要因と目されてきた。
しかし、交流戦後のセ(各チーム11試合消化)の本塁打数は、ヤクルトの24本を筆頭に合計68本。対するパ・リーグは試合数が1~2試合少ないものの同合計44本と違いは明らか。チームの1試合平均得点、同失点共にセ・リーグは「打高投低」、パ・リーグは「投高打低」の傾向が顕著だ。
打の実力者たちの不振も「投高」に拍車をかけた一因
これは何を意味するのか?
セ・リーグでは一足早く投手陣の夏バテ現象が起きているとも考えられる。ドーム球場の多いパ・リーグに対して屋外球場が大半を占めるセでは投手の疲労度は大きい。
この連載でも触れたが、佐々木朗希(ロッテ)山本由伸(オリックス)千賀滉大(ソフトバンク)らの快速球本格派の多いパでは、打者の苦戦は免れない。先発だけでなく、救援投手にも休養を与えるヤクルトの「高津方式」は各球団に浸透してきている。
加えて、毎年打撃タイトル争いに名を連ねる実力者たちの不振も「投高」に拍車をかけた。特にパでは、吉田正尚(オリックス)や柳田悠岐(ソフトバンク)選手らが故障で出遅れたため、本来の破壊力が影を潜めている。
外国人選手にも同様なことが言える。ロッテのブランドン・レアード、レオニス・マーティンやソフトバンクのユリスベル・グラシアル、アルフレッド・デスパイネ。セ・リーグでもジェフリー・マルテ(阪神)やタイラー・オースティン(DeNA)らが不本意なシーズンを送っている。
故障や、コロナ禍による調整の失敗など原因は様々だが、猛打が影を潜める大きな要因となったことは間違いない。
球界は今、多くのチームが若返りに舵を切っている。新庄日本ハムなどは最たる例だろう。
佐々木を筆頭格に宮城大弥(オリックス)奥川恭伸(ヤクルト)高橋宏斗(中日)ら生きのいい若手投手の台頭は目立つが、同年代の野手が主軸に育つにはもう少し時間がかかる。
投手が結果を残せば、打者は攻略に知恵を絞る。打者が上位に立てば、投手はいかにして打ち取れるかを研究する。果てしない戦いが新たな野球を作り出す。
170キロの快速球を打球速度200キロ近い本塁打で打ち返す。夢の時代はそこまで来ている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)