白球つれづれ2022~第27回・“令和の安打製造機”阪神・近本が挑む連続安打のプロ野球新記録
阪神・近本光司選手の安打記録が話題を呼んでいる。
5月28日の対ロッテ交流戦から始まった連続試合安打は今月3日の中日戦まで伸びて29を記録。5日の広島戦で安打を放てば、マット・マートンの球団記録に並び、33試合連続安打の日本記録を持つ高橋慶彦(元広島)に肩を並べるのも秒読みに突入する。
入団4年目ながら、残して来た実績は素晴らしい。
ルーキーイヤーから2年連続の盗塁王、そして昨年は178本の安打を量産して最多安打のタイトルを獲得。初のベストナインとゴールデングラブ賞にも輝いている。
1年目のオールスターでは史上初の新人による先頭打者本塁打にサイクル安打も記録してMVP。この年のシーズンでは154安打を放って長嶋茂雄(巨人)の持つセリーグ新人安打記録を60年ぶりに塗り替えている。毎年のように安打記録を更新しているのだから“令和の安打製造機”と呼んでもいいだろう。
自他共に認める「夏男」である。
毎年、春先はエンジンのかかりが悪くスロースターターと呼ばれる。
今季も開幕直後の3月は打率.200、4月も.239と不振に苦しんだ。特に今年の場合はチームがいきなり9連敗の泥沼スタートだから“戦犯”呼ばわりもされた。
だが、この男の強みは、ひとたび打ち始めると止まらないところにある。1年目も、2年目も13試合連続安打をマークしている。それが今季は現時点で29試合連続安打、気が付けば打率は3割台に乗せて、首位打者だって手の届く位置に戻して来た。屈辱的な最下位からの逆襲は投手陣の再整備と大山悠輔、中野拓夢、そして近本の復調が原動力となっている。
集中力と修正能力。優秀な打者に求められる必要条件だ。
目下、パリーグの本塁打レースを独走する西武の山川穂高選手が語るように「ホームランと打点は減らない」。いわゆる貯金が効く。しかし、打率はそういかない。
例えば3打数ノーヒットの最終打席に安打を放てば4打数1安打で、3割打者でも大きく数字を落とすことはない。仮に四球を選べば4打席凡退より傷口は最小限でとどめることが出来る。首位打者を狙うなら、この程度の集中力は当たり前のことだ。
もう一つの修正能力とは、その日の中で相手との対戦を振り返りながら、打撃そのものを微調整する力を指す。
3日の中日戦で柳裕也投手の前に2打席凡退した近本は「今日はダメかも」と弱気になったが、その直後に「相手より自分の問題。しっかり打ちに行くタイミングに変えた」と言う。その直後から右安打と四球で出塁、打率を上げている。こうした継続が近本の好調ぶりを物語っている。
連続安打記録と200本安打達成でチームを上昇気流に
連続試合安打の日本新達成には運も必要だ。相手投手が四球連発ならヒットは生まれない。いい当たりが野手の正面を突いたり、美技に阻まれることもある。しかし、30試合以上を記録した先達の顔ぶれを見ると高橋を筆頭に、福本豊(阪急)張本勲(巨人、東映など)秋山翔吾(西武、現広島)など快速の選手が多いのも特徴、その意味では近本も十分、可能性は秘めている。
仮に5日からの広島3連戦で安打を継続出来れば32試合まで数字は伸びて日本記録に王手となる。
だが、それでも近本の前に「鬼門」は立ちはだかる。8日からのヤクルト戦、特に相手本拠地である神宮球場の今季成績は24打数1安打、打率は.042と最も苦しんでいる。そんな最悪データも勢いで吹っ飛ばすか。
目下、シーズン100安打に「あと1」と迫っている近本の年初からの大きな目標は200本安打の達成である。昨季が178安打だから夢の記録ではないが、チームは80試合を消化、残り試合数を考えれば今以上の量産が必要となる。連続試合は1日1本でもいいが、200安打の目標達成には固め打ちも欲しい。
「チカには、まだ通過点」と言う矢野燿大監督の願いは連続安打記録で勢いをもたらして、200安打越えならチームの更なる上昇も見込める点にあるのだろう。
季節外れのヤクルトマジック点灯で、ややもすれば興味を失いがちなセのペナントレース。せめて虎のヒットマンの快記録に興味をつなぎたいところだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)