コラム 2022.07.19. 08:43

「負けない男」阪神・青柳晃洋の雑草魂【白球つれづれ】

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阪神・青柳晃洋 (C) Kyodo News

白球つれづれ2022~第29回・「雑草魂」でリーグ屈指の投手に成り上がった青柳晃洋


 阪神の青柳晃洋投手に新たな勲章が加わった。

 今月26、27日に行われるオールスターの投手部門でファン投票1位に選出された。22万8394票は2位の森下暢仁投手(広島)に6万票以上の大差をつけている。以下、菅野智之(巨人)、今永昇太(DeNA)大野雄大(中日)ら、リーグを代表するエースを従えてのトップ当選だから、本人の喜びもひとしおだろう。

 成績から見れば非の打ちようがない。

 17日現在(以下同じ)10勝1敗。防御率1.37に勝率.909はいずれも両リーグトップを快走。奪三振も中日・柳裕也投手と激しく競っている状態でこの先、投手タイトルを総なめも視野に入れている。現時点で投手の最高栄誉と言われる沢村賞に当確ランプを灯してもいいほどだ。

 「一強五弱」と呼ばれるほどのセリーグペナント模様。大量のコロナ感染者を出して、苦しむ首位のヤクルトだが残る5チームが星のつぶし合いでは、容易にその差は縮まらない。しかし、開幕から長く最下位に沈んでいた阪神にとってはAクラス入り、さらにクライマックスシリーズに夢を持てる位置までこぎつけた。青柳と西勇輝が投手成績の上位を占めるだけに、短期決戦となれば活路は開ける。

 「阪神の中で一番になりたい。それが出来たら今度は日本一のピッチャーになりたい」

 青柳がよく口にする言葉だ。評価は低くても努力でそれをはね返して来た。そんな「雑草魂」が虎のエースを支えている。


無名の存在から阪神のエースへ


 神奈川・川崎公科高時代は全くの無名。松坂大輔に憧れ本格右腕を目指すが結果が出ずにサイドスローに転向。横浜高、東海大相模などの強豪には歯が立たず県大会のベスト16進出がやっと。それでも「野球部の一番に、県立高校の一番になる」と歯を食いしばったと言う。

 帝京大を経て、ドラフト5位入団後も、輝きを放つまでに時間がかかった。

 4年目にようやく1軍の先発要員として9勝(9敗)をマーク、そして、昨年初めて最多勝(13勝)と最高勝率のタイトルを獲得してエースの仲間入りを果たした。

 パリーグには佐々木朗希(ロッテ)、山本由伸(オリックス)らの剛腕投手が揃っている。オールスターでも奪三振ショーに注目は集まるが、青柳は「全部ゴロアウトを狙います」と言ってのける。

 150キロのストレートもない。しかし、それでいて人一倍の白星を稼ぎ出し、防御率でも圧倒するのはサイドハンドから繰り出す絶妙な投球術があるからだ。

 ツーシーム、スライダー、シンカー、カットボール、チェンジアップなど多彩な変化球を左右高低に投げ分ける。

 サイドハンドやアンダーハンドは左打者に弱く、投球モーションが大きくなりがちで走者に盗塁を許しやすいと一般的には言われる。だが、青柳には必殺の武器がある。高速クィックだ。

 通常の投手で1秒以上かかるクイックモーションを0秒9台に改良、この高速クィックは走者のいない時でも、投げるから打者にとってはタイミングを合わせづらい。左打者には「バックドア」と呼ばれるボール気味のコースからストライクを取る新兵器も身に就けている。こうして、無名のサイドハンドは阪神で一番の投手にのし上がった。

 今月15日の中日戦で10勝一番乗りを果たしたが、昨年に次ぐ2年連続の一番乗りは球団初。セリーグでは89、90年の斎藤雅樹(巨人)以来32年ぶりの快挙となった。同じサイドハンドの大投手に一歩近づいたのだから「日本一の投手」も手の届くところにやってきた。

 どこまでも頂点を目指す青柳にはほろ苦い汚点もある。

 昨年の東京五輪で金メダルを獲得した侍ジャパンだが、初選出の侍は本来の力を出し切れずに終わっている。1回2/3を5失点、防御率27.00の数字が残った。

 そんな屈辱を晴らすには来春に予定されている国際ゲームWBCに日本代表として選出されて、好投を演じるしかない。

 「日本一のピッチャーになりたい」雑草男の最終章は、もうそこまで来ている。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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