白球つれづれ2022~第31回・今季中の開催が決定的となった「現役ドラフト」の不安点とは?
近年、球界の大きな懸案事項だった「現役ドラフト」が、今オフにも実施される見通しとなった。
球宴期間中の7月26日に開催されたプロ野球選手会の臨時大会で、NPB(日本野球機構)が提示する現役ドラフト案を大筋で受け入れることを決議したもの。これにより、12月初旬の開催が確定的となった。
現役ドラフトとは、出場機会に恵まれない選手の移籍を活性化させるもので、現時点では12球団が各チーム2人以上の選手リストを提出して、最低1人以上は獲得し、1人以上は他球団へ移籍することになっている。
選手会の森忠仁事務局長は「細部は話し合わなければいけないところは残っている」としながらも、「必要とする選手はいるので進めていく」と語っている。
選ばれた者だけが入団するプロ野球。その生存競争は激しい。
現行の「支配下登録」が許される選手枠は70人。それ以外は「育成枠」として扱われる。ここに毎年ドラフトで10人近い選手が入団、さらに育成枠でも獲得するから多いチームでは1年間に20選手ほどが新チームに加わる。当然、淘汰される選手は退団や引退に追い込まれる訳だ。
入団直後には、期待を一身に担った選手でも、伸び悩んだり、故障によってチーム構想から外れていく者もいる。新庄剛志監督就任と同時にチームの若返り策を勧める日本ハムのように、西川遥輝(現楽天)や大田泰示(現DeNA)らの主力選手を「ノンテンダー」の名のもとに自由契約とする球団もある。
そんな中で、現状ではレギュラーは望めないが、環境を変えることによってもう一花咲かせることも可能と思われる選手への起爆剤となり得るのが現役ドラフトである。
例えば阪神の髙山俊選手などは同制度の有力候補と言っていいだろう。
2015年のドラフト1位。日大三高、明治大と甲子園、神宮で華々しい活躍を見せると16年にはセリーグの新人王を受賞している。だが、2年目以降は徐々に輝きをなくし、昨年はついに1軍出場ゼロ、今季も38試合に出場したが打率は1割台。
2軍落ちの6月のウェスタンリーグ、ソフトバンク戦では自打球を右ひざに当てて骨折の不運にも見舞われている。天才的な打撃術も、近年は近本光司選手と外国人が占める外野陣にあって残る一つの枠に食い込めない。
同様に現役ドラフトの話題になると巨人の重信慎之介選手の名前も浮上する。
こちらも髙山と同じプロ7年目の29歳。毎年のように外野の定位置確保を期待されながら、結果を残せず1軍と2軍を往復している。
「走攻守で一定以上のレベルにある。環境が変われば大化けも期待出来る」とある球団の編成担当が高評価するほどの素材だ。トレードの活性化によって各球団が補強ポイントを強化して、選手にも今まで以上に活躍のチャンスが広がるなら、これ以上の良策もない。
選手リストアップについての規約を明確にすべき
だが、この現役ドラフト実施にあたって、不安点もある。
「球団が(対象選手を)任意で選ぶのでどの程度の選手が出て来るのかわからない。選手会が望むところではないのではないか」と森選手会事務局長が指摘するポイントである。(27日付日刊スポーツより)
つまり、前述した髙山や重信クラスの1軍半選手でなく、もっと実績のない整理寸前の選手をリストアップされたら現役ドラフトの意義さえ形骸化される。
本来なら高卒は7年以上26歳から、大卒なら6年、29歳と言った形で、過去3年の1軍試合出場が半分以下など規約を明確にすれば本らの趣旨と合致する。
今回の現役ドラフトが参考にしたのはMLBの「ルール5ドラフト」と言われている。メジャーでは毎年12月のウィンターミーティング最終日に開催され、メジャー40人枠外から19歳以上は4年、18歳以下は5年の経過後にドラフトされて、1シーズンはベンチ入り26人枠に入れることが義務付けられている。(違反した場合は罰金を払い旧球団へ復帰させる)
これくらいに規約が明確化されれば、球団と選手会側のすれ違いは防げる。
要は同じ理念の下で、同じ理想を追求する。「同床異夢」は許さないことだ。
過去にも、ドラフトの形骸化や、変革の骨抜きなどが繰り返されてきた。せっかく、球界の大きな懸案事項が一歩前進するのだから、「見掛け倒し」だけはあってはならない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)