大化け期待の高速サイドスロー
いよいよ8月6日に開幕する『第104回全国高等学校野球選手権大会』。
7月31日には全49地区の代表校が出揃い、今年も甲子園の夏がやってくる。
高校生のドラフト候補にとっては、この地方大会から甲子園というのが秋のドラフトに向けた最後のアピールの場となる。
今回からは、残念ながら甲子園出場は叶わなかったものの、地方大会で良いアピールを見せた選手たちをピックアップしていきたい。
まず取り上げたいのが、東海地区でNo.1投手の呼び声高い常葉大菊川の安西叶翔だ。
▼ 安西叶翔(常葉大菊川)
・投手
・186センチ/84キロ
・右投右打
<主な球種と球速帯>
ストレート:141~148キロ
カーブ:113~118キロ
スライダー:126~128キロ
カットボール:135~138キロ
ツーシーム:128~130キロ
<クイックモーションでの投球タイム>
1.24秒
今春から本格的なエースに成長
1年秋には、早くも背番号1を背負い東海大会に出場。だが、先発した初戦の海星戦では、序盤に味方が5点をリードしたにもかかわらず、中盤に崩れて6回途中4失点で降板。チームも逆転で敗れている。
その後もボール自体は素晴らしい一方で、突如崩れる不安定さがあり、完全なエースになることはできなかった。
ようやく安西が本格的なエースに成長したのは、この春からだ。
1回戦敗退で終えた県大会が終わった後、練習試合で快投を続け、夏は1年秋の東海大会以来となる背番号1をつけることになった。
そんな安西のこの夏の初戦となったのが、7月9日の対市立沼津戦。
先発マウンドに上がった安西は、立ち上がりから圧巻のピッチングを見せる。
1回から3回までは1人の走者も許さないパーフェクトピッチングを披露。
2回と3回はともにわずか9球で三者凡退に抑え込んだ。
4回に不運な内野安打でパーフェクトは途切れたものの、中盤以降も全く危なげない投球で8回を四死球0、8奪三振で無失点。
点差が開いたため9回はリリーフにマウンドを譲ったが、先発投手としてほぼ完璧な内容でチームを勝利に導いた。
この日のストレートは自己最速の148キロには及ばなかったとはいえ、最速は146キロを記録。
終盤までコンスタントに140キロ台中盤をマークし、最後まで球威が落ちることがなかった。
コントロールの不安定さが解消
メディアでは「大型サイドスロー」と紹介されることが多いが、腕の振りは真横というよりもスリークォーターとサイドの中間くらいで、投げ下ろすという表現の方がしっくりくるフォームである。
186センチの長身でリーチが長い一方、テイクバックで上手く肘をたたみ、後ろが小さく前が大きい腕の振りで球持ちが長いため、ストレートは数字以上に打者の手元で勢いが感じられた。
昨年秋まではコントロールが不安定で、投げてみないと分からない部分が大きかったと聞くが、この日は常にストライク先行。
球数も少なく、かつての課題は解消されているように見えた。
そして安西の魅力はストレートだけではない。
120キロ台後半のスライダー、130キロ台中盤のスライダーはストレートと同じ腕の振りで投げることができ、どちらも鋭く横に変化することから、打者は体勢を崩されることが多い。
タイミングを外すカーブは、少し腕の振りが緩むのは気になったが、小さく沈むツーシームも操り、あらゆるボールで勝負できる。
最大のピンチとなった8回の無死一・二塁の場面では、送りバントを素早く処理してサードでアウトにするなど、投げる以外のプレーでも高いレベルを見せた。
この日のスタンドには11球団・19人のスカウトが集結していた。
その前で強烈なアピールになったことは間違いなく、このなかには「高い順位でないと指名できない」と話しているスカウトもいたほどだ。
この春に安定感が増してきたことは確かだが、潜在能力の高さを考えると、まだまだ開花状況は5割程度といったところ。今後大きく化けそうな雰囲気があるのも大きな魅力である。
プロでも大勢(巨人1位)が大活躍していることもあって、オーソドックスではなく、やや変則な投手の評価も高まっている。
10月のドラフトでも、早めに安西の名前が呼ばれる可能性は十分にあるだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所