第3回:メジャー生き残りの戦いに挑む筒香と有原
この夏、神宮球場のヤクルト戦に大リーグ、ヤンキースのスカウトがやってきた。
お目当ては村上宗隆選手だ。本塁打と打点でセリーグトップを快走、三冠王さえ視野にとらえる怪物スラッガーの一挙手一投足に目を光らせている。
村上と言えば、まだプロ5年目の22歳。FAやポスティングでメジャー挑戦をするにしても、5~6年先のことになるが、それでも調査を怠らないあたりに本気度が覗える。
大谷翔平の存在は米球界の日本人プレーヤーに対する認識を変えたことは間違いない。これまでは野茂英雄、松坂大輔、佐々木主浩、ダルビッシュ有など投手の評価は高いものの、野手ではイチロー、松井秀喜氏らが活躍しても大谷ほど全米を熱狂させる選手はいなかった。投手で一流、打者でもMLB屈指の破壊力。その意味では第二、第三の大谷を探せ、と関心度はさらに高くなっている。
その一方で、日本人メジャーリーガーには、ショッキングな報せも相次いだ。
6月には秋山翔吾選手がレッズを自由契約となり、広島に国内復帰。8月にはパイレーツの筒香嘉智選手が戦力外通告を受けた。
秋山の場合は、日本のトレード期限(7月末まで)に間に合ったが、筒香はそれもかなわず、一時は“浪人”の身となったが、ようやく日本時間16日にブルージェイズとマイナー契約にこぎつけた。
前年のオフに球団からは3年契約を打診されたが、あえて、単年契約を選択した。3年前にはレイズと2年総額1200万ドル(約16億円)でメジャー挑戦を決めたが、2年目途中でドジャースに移籍、3A落ちを経験したのちにパイレーツに移ると、短期間ながら43試合で8本塁打、25打点の結果を残した。
ようやく「安住の地」を見つけたかに思えたが、今季は5月に「腰部の筋肉損傷」で故障者リスト入り、7月にメジャー本体に戻ったものの、成績は上がらず戦力外の烙印を押された。
1年目はコロナ禍で渡米もままならず、2年目からは故障に泣かされた。
通常の選手ならパ軍の複数年契約に飛びつくところだが、あえて単年契約を選択した動機が筒香らしい。
二度に及ぶマイナー時代に目撃したのは、激しい生存競争の中で、いつ解雇されるかわからない恐怖と戦う選手たち。「ちょっとでも甘い考えがあれば(自分も)通用しない。本気で勝負しなければ」と言う思いが、自ら退路を断つ決断につながった。
メジャー3年間の成績は18本塁打に、打率は.191。パイレーツ移籍直後には「安いお買い得」と期待した地元マスコミも、最後は「若手の出場機会を奪う障害だ」と酷評だから、もはや居場所はなかった。
短期間で成績を残して首脳陣の信頼を勝ち取れるか
新天地のブ軍は、昨年大谷と激しい本塁打王争いを展開したゲレーロ・Jr選手ら強打者の揃うチームだが、左打者は手薄で、筒香の潜在能力の高さに賭けた格好。今後は3Aのバッファローから、ポストシーズンの出場資格に必要となる8月中のメジャー40人枠に入れば、再出発が可能になる。
とは言え、DeNA時代の豪打は影を潜め、打球は左方向に偏り、長打の魅力は影を潜めている。打撃フォームもオープンスタンスからスクエアに変えたり、試行錯誤が続く。メジャーの分厚い壁にぶち当たっている現状を打破するには、残された短期間で成績を残して首脳陣の信頼を取り戻すしかない。
筒香や秋山がメジャーの洗礼を浴びたように、今オフの去就が注目される選手はまだいる。レンジャース傘下の3A・ラウンドロックから、このほどメジャー昇格を果たした有原航平投手も剣が峰に立たされている一人だ。
早速、日本時間17日のアスレチックス戦に先発起用されたが、6回途中3失点で黒星。3Aでの成績は3勝6敗、防御率も4.88と決して良いものではなかった。今季はフレーオフ進出を目指したが、脱落。現在は若返りを軸にチームの再強化を模索中で、最後の“メジャーテスト”の意味合いが強い。ルーキー―イヤーの渡米直後に右肩の動脈瘤手術を受け、それ以降は日本時代の輝きを失っている。
メジャーリーガーとして成功すれば、日本時代の何倍もの報酬を手にすることが出来るが、結果を残せなければあっという間に整理リストに入れられるのも弱肉強食世界の掟である。日本人メジャーリーガーの場合は、中米などの若手選手に比べて国内での実績がある分、高額な契約となり、年齢的にも30代近くが多いため、厳しい評価は即、退団の道につながる。
今オフにはソフトバンク・千賀滉大投手のメジャー挑戦が話題を呼びそうだ。オリックス・山本由伸投手に、将来的にはロッテ・佐々木朗希投手や冒頭の村上選手らが海を渡ると見られている。
アメリカンドリームをつかむ者に、ぎりぎりの立場に追い込まれる者。それでもMLB関係者の日本詣は止まらない。激しい新陳代謝。これもまたメジャーの顔である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)