白球つれづれ2022~第34回・DeNAの快進撃が勢いだけではない理由
時代は確実に変わっていく。
セ・リーグのチーム成績を見ていると、ある感慨にとらわれた。
首位を行くヤクルトに4ゲーム差まで迫るDeNA。以下、阪神、広島、巨人、中日と続く。(22日現在、以下同じ)
落合博満監督が中日を率いていた2004年から11年あたりの“セ界”はどうだったか? 現在最下位の中日から逆の順位が当たり前。つまりヤクルトやDeNAは下位が定位置の弱小チームだった。
特に、ここへ来てのDeNAの強さには目を見張るものがある。
今月16日からの巨人、広島と続く6連戦に6連勝。本拠地・横浜スタジアム(通称ハマスタ)での連勝は17まで伸びて、8月は実に14勝2敗の快進撃。ヤクルトが同月、6勝10敗と足踏みしている間に、最大17.5ゲーム差あったものが、確実に背中の見える位置まで忍び寄ってきた。
急上昇の要因は多岐にわたる。大黒柱の今永昇太と守護神・山﨑康晃両投手の復活に、入江大生、伊勢大夢、エドウィン・エスコバー投手らで編成する中継ぎ陣が整備されたこと。打線では前半戦に欠場が目立った宮﨑敏郎やネフタリ・ソト選手らが戻って「ニュー・マシンガン打線」に迫力が増した。
就任2年目の三浦大輔監督は昨年とは一味違う全員野球に手応えを感じている。中でもチームの変身ぶりを象徴するビッグプレーが飛び出したのは今月17日の巨人戦だ。3点ビハインドの苦しい展開で迎えた5回。1点差まで追い上げると、楠本泰史選手がすかさず、初球を同点スクイズ。ゲームの流れをつかむとソトの決勝本塁打などで鮮やかな逆転勝利をつかんだ。
98年優勝時の強さを体験した指導者を招集
98年に日本一を獲得以来、優勝から遠ざかっている。12球団で最も長い低迷期に、球団は昨年オフに大手術を行った。
斎藤隆チーフ投手コーチ、石井琢朗野手総合コーチに、鈴木尚典打撃コーチと、いずれも日本一を知るOBを招集。より勝利にどん欲な組織づくりに着手したのだ。
かつて、ある名将が語った言葉にチーム作りの妙がある。
「キャンプの時点ではどのチームも優勝を口にする。だが、シーズンに入って負けが混むと弱小チームはズルズルと後退していく。いわゆる“負け犬根性”が染みついている。その辺りが常勝チームとの違いになる」
今季、ベイスターズでは大きな変革が行われている。試合前に野手全員が集まると石井コーチが前日の反省と今後の戦い方への方向付けを語っている。主力も控えも自分の役割を明確化されることで、意思の疎通が図られる。
投手陣では斎藤コーチを中心に先発投手の登板間隔調整や中継ぎ陣にもリフレッシュ休暇を与えるなど、長丁場を見据えた起用法に変化が見られだした。
その結果、主将の佐野恵太選手は「リードを許しても今は負ける気がしない」とベンチの好ムードを語っている。
ヤクルトが昨年、高津臣吾監督や伊藤智仁投手コーチら野村ID野球の黄金期を知る首脳陣で最下位から日本一に駆け上がった。DeNAでも斎藤、石井コーチら98年優勝時の強さを体験した指導者が戻ることで“勝者のメンタリティー”が、植え付けられたとしたら、一時的な勢いとは片づけられないだろう。
「今は球場に来るのが楽しい」
今年になって同じ言葉を二人から聞いた。ヤクルトの塩見泰隆選手とDeNAの佐野選手だ。
その両雄は26日から首位攻防の直接対決を迎える。残り試合を考えればヤクルトの優位は動かないが、決戦場がハマスタならひょっとすると、ひょっと、の可能性も膨らむ。
パ・リーグは首位の西武から4位のオリックスまでが2.5差。セリーグではヤクルトとDeNAの天王山といい、誰がこんなペナントレースを予想できただろうか?
時代は確実に変わっている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)