夏の風物詩…?
19日にベルーナドームで行われた西武-オリックスの一戦で、とあるシーンがSNS上で話題になった。
何かと言えば、野球のプレーではなく、球審が笑顔でスプレーを噴射する写真……。グラウンド内に迷い込んだ虫たちがプレーの邪魔をすることがないよう、審判も戦っていたのだ。
多くの方はご存知かと思うが、ベルーナドームは完全密閉された空間ではなく、公式でも「自然共生型ボールパーク」と謳っているように、いわゆる「半ドーム」の形状となっている。
屋根と客席の隙間が空いているため、特に夏季のナイターでは虫たちが入り込むことも珍しくないのだ。
そんな虫たちが、思いがけないハプニングをもたらすことも過去には会った。今回はそんな“虫騒動”の数々を振り返ってみたい。
岸孝之に蛾が体当たり!?
“飛んで目に入る夏の虫”騒動が起きたのが、2015年8月18日に埼玉県営大宮公園野球場で行われた西武-楽天だ。
西武の先発・岸孝之は1回と5回に2安打ずつを許したものの、要所を締めて無失点に抑える。
一方、楽天の先発・則本昂大も2回以降毎回走者を出しながらも失点を許さず、エース同士の緊迫した投手戦が続いていた。
ところが、0-0で迎えた6回の楽天攻撃中に、まさかのハプニングが起きる。
二死無走者でウィリー・モー・ペーニャのカウントが1ボール・1ストライクになった直後、マウンドの岸が突然一塁方向へ歩き出し、痛みを訴えるように手で顔を押さえた。
ペーニャも「一体何が起きたんだ?」と言いたげに、いぶかしげに成り行きを見守っている。
ほどなくして、岸はマウンドに戻り、プレー再開となったが、2球続けてはっきりとわかるボール。明らかに投球に悪い影響が表れていた。
それでも岸は気力を振り絞って、3ボール・1ストライクからペーニャを遊ゴロに打ち取り、この回も何とかゼロで抑えた。
実は、ペーニャに2球目を投げるのとほぼ同時に、どこからともなく飛来してきた1匹の巨大な蛾が岸の目を直撃していたのだ。
かなり強い勢いで当たったと見え、スローVTRを見ると、衝撃で蛾はそのままポトリとマウンドに墜落していた。
一歩間違えば登板不能になりかねない“衝突事故”にもめげず、7回を無失点に抑え、シーズン3勝目を挙げた岸は「投げているときに当たりますか?やめろと言ってください」と苦笑いしたが、ライバル・則本に投げ勝ったうれしさから「蛾が勝たせてくれたのかな」の一言も飛び出した。
ハチに刺された落合博満
蛾にフライングボディアタックを食らった岸に対し、ハチのひと刺しに泣いたのが、日本ハム時代の落合博満だ。
1997年8月10日、いわきグリーンスタジアムで行われた西武とのみちのくシリーズ第2戦。「4番・一塁」で出場した落合だったが、7回に一邪飛を落球し、2点を追う9回にも先頭打者で空振り三振と攻守に精彩を欠いた。
実は、守備中に左肩をハチに刺されてしまい、このアクシデントが影響したようだ。
ちなみにその前日、福島県営あづま球場で行われた西武戦でも、打席に入った落合のユニホームの背中にセミが止まるハプニングがあった。
ただ、セミはハチと違って刺すことはないので、セミの存在すら気づかず、打撃に専念できた落合は3打数2安打で1打点と結果を出し、チームの勝利に貢献している。
思えば、広島・今村猛も2014年6月14日のロッテ戦(QVCマリン)で、帽子の後ろにトンボが止まっているのに気づかないまま投球を続け、三者凡退に抑えたことがあった。
虫にも幸運をもたらす“良い虫”がいるようだ。
虫に刺されて緊急降板
一方、“悪い虫”に泣かされたのが、中日のブラッドリー(本名=ブラッド・バーゲセン)だ。
ブラッドリーはファーストネームで、高木守道監督が講演会で「名前が良くない。バーゲンセールの選手じゃ困る」と発言し、球団側が登録名の変更について本人を説得した。
2013年6月25日に富山市民球場(アルペンスタジアム)で行われた阪神戦。この日一軍に復帰したばかりのブラッドリーは、初回に二死一・二塁のピンチを招くが、新井貴浩を三ゴロに打ち取り、何とか無失点で切り抜けた。
ところが、さあこれから……というときに、右手人差し指の腫れを理由にたった14球投げただけで、緊急降板してしまう。
試合前に虫に刺されたというブラッドリーは「午後になって(腫れが)大きくなってきた。かばって投げていたら、腕にも影響したので降板した」と説明した。
先発投手が虫に刺されて降板したなんて話は、もちろん前代未聞の珍事である。
一夜明けた翌26日、症状はさらに悪化。ブラッドリーは移動先の金沢市でランニング中に「イタイ、イタイ」と異常を訴えた。
診察の結果、患部からばい菌が入っていたことがわかり登録抹消。高木監督は「“悪い虫”に刺されたということや」と不機嫌な表情で説明したが、その後も調子が戻らず、同年9月3日に戦力外通告を受けた。
入団前に外国語学習ソフトで日本語を勉強し、中日の球団創設年まで記憶していた“真面目な助っ人”だったが、文字どおり悪い虫がついて、身を持ち崩す結果に泣いた。
角中勝也の“虫退治”
最後に、“虫退治”で知られる選手もご紹介したい。ロッテ・角中勝也だ。
昨年6月18日の西武戦(メットライフドーム)のこと。1-0の4回、角中はカウント1ボール・2ストライクから高橋光成の外角フォークを見逃した直後、タイムをかけると、バットを持ったままマウンドに向かって歩きはじめた。
捕手の森友哉は「危険球でもないのになぜ?」と目を白黒。マウンドの高橋も、角中が近づいてくるのに気づくと、ギョッとした。
だが、角中は途中で足を止めると、空中に向かってバットを2度にわたって突き出し、虫を追い払うような仕草をした。飛来してきた虫がまとわりつき、打席に集中できなくなったようだ。
直後、角中はバットの先端部分にこびりついた虫の死骸とおぼしき物体を左手ではがすと、何事もなかったように打席に戻った。
実況アナも「何が起こったかと思いましたね……」と振り返った珍場面。動画を見たファンから「どうしてこの動作だけで殺虫できるんだろう」と疑問の声も出た。
シーズン終了後、角中はこの行動について、虫ではなく、クモの巣が風に乗ってボールの軌道上に来たため、気になってバットを突き出したと意外な真相を打ち明けている。
こうして振り返ってみると、本当にグラウンドにはいろいろなものが飛んでくると痛感させられる。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)