白球つれづれ2022~第35回・大きな曲がり角に差し掛かる巨人
巨人の原辰徳監督と言えば、ファンを大切にする指揮官だ。
どんなに不甲斐ないゲームの後でも、報道陣の求めに応じて取材に応じてきた。独特な表現は「原語録」として知られている。
そんな大監督が発した談話が波紋を呼んでいる。
「心境としては(キャンプインの)2月1日をもう一度迎えたいよ」
「中々、男になってくれる人がいないね」
「今さら、技術を自分で疑っても仕方がない。1球に賭けると言う強い集中力でしょう。最終的には“負けん気”だから」
28日に行われた広島戦に敗戦。5位転落は一時的なものとしても、内容がひどすぎた。
初回は先発の赤星優志投手が3四死球でピンチを招くと、1本のヒットで2点の先制を許す。ようやく同点に追いついたら中盤には名手・吉川尚輝選手の連続失策が絡んで再び失点。最後は8回無死満塁のビッグチャンスに後続が三者凡退。これでは、原監督の“お手上げ談話”につながっても不思議ではない。
29日現在(以下同じ)チームは56勝63敗1分けの5位に低迷。クライマックスシリーズ圏内の3位・阪神までは2ゲーム差だから、まだ巻き返しは可能だが、最下位の中日にも1.5ゲーム差に迫られている。もしも、このまま最下位まで沈むようなら1975年、長嶋茂雄監督時代以来の事件となる。
笛吹けど踊らず、打つ手なし。今のチーム状況には何が何でもAクラス入りを目指す気概が感じられない。それが前述の原談話にもにじみ出ている。残り23試合でかなりの変貌を遂げないと、ずるずる後退するような気がしてならない。
「育成と勝利」の大方針を掲げるも停滞
手元に月別の勝敗表がある。
開幕直後の3月を快調に飛び出した巨人は4月も首位ロードを走る。2カ月の合計は20勝11敗と申し分ない。3月31日のヤクルト戦で堀田賢慎投手が初先発初勝利を上げると、その後も赤星、大勢、平内龍太、山﨑伊織、戸田懐生らの若手投手が次々に初勝利を上げていった。
そんな勢いが止まったのは5月からだ。同時期にエースの菅野智之投手が右肘に違和感を訴え、主将の坂本勇人選手は右膝靱帯を痛めて登録抹消。投打の柱を欠いたチームはここから転落していく。7月下旬には選手、首脳陣など計84人に及ぶコロナ禍の戦線離脱もこたえた。5月から8月まで4カ月連続の負け越しが決定して、借金は7まで膨れ上がった。
「育成と勝利」。前年を3位で終えた名門球団は、昨オフに大きなチーム強化策の変更を決断する。これまではトレードやFAに頼ってきたがこれを封印。菅野や坂本の高齢化もあって、チームの若返りを図る大手術に踏み切った。
同時に原監督は前年までの反省から首脳陣の役割分担も明確化を図っている。具体的には元木大介ヘッドコーチを「オフェンスチーフ」、次期監督の最有力と目される阿部慎之助コーチを「作戦兼ディフェンスチーフ」に。投手陣は桑田真澄コーチを「投手チーフ」として、役割の曖昧さを排除した。
しかし、大方針である「育成」は、投手陣の顔ぶれが一新されたものの、シーズンを通して活躍するまでにはいかない。野手に至っては増田陸、中山礼都選手らの若手が出てきたが、レギュラー陣を脅かすまでにはなっていない。
その結果、チーム失点518に同防御率3.89から、同与四死球417、同チーム失策74までリーグワーストの有様。これでは上位進出もおぼつかない。
かつて、クライマックスシリーズのなかった頃には8月の終わりになると「真夏のストーブリーグ」が吹き荒れた。今でこそ、3位以内に食い込めば日本一も夢ではないから首脳陣の去就を含めた人事報道も控えめとなるが、水面下では来季以降の新たな構想を練る球団は多い。
巨人でも、近年、原監督の後継者が話題になっている。昨年、新たに3年契約を結んだため、今季限りの勇退は考えにくいが、仮に最下位に沈んだ場合はややこしくなる。監督の責任はもちろんだが、後継者と目される阿部、元木、桑田の主要コーチも役割の分担から言えば全員が責任を問われる格好だ。
このオフには、巻き返しのために再び、トレードやFAの活発化も囁かれている。今年は浅村栄斗(楽天)や森友哉(西武)などの大物選手がリストアップされて、激しい争奪戦も予想される。しかし、そうなれば大前提である若返り策にも悪影響を及ぼしかねない。
本年5月にプロ野球選手会が発表した12球団年俸調査ではソフトバンクに次ぐ2位となった巨人だが、同時に行われた「契約更改満足度」では下から2番目にとどまった。一部の選手が高給でも全体ではそうでもないと言う「球団内格差」が要因との指摘もある。
常に強くて、人気も誇った巨人だが、チームとしての在り方も含め大きな曲がり角に差し掛かっているのは間違いない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)