18歳が見せた“大人の投球”
緊張や重圧の2文字は皆無に見えた。
代わりに印象を強くさせたのは「本物」や「逸材」という形容詞。阪神タイガースの高卒1年目、森木大智の一軍デビュー戦は出色のパフォーマンスだった。
結果だけ見れば、6回3失点でプロ初黒星。ただ、見る者はそこにネガティブな要素を微塵も感じなかったはずだ。
プレイボール数分前、三塁ベンチ前に出てきた背番号20はゆったりと体を大きくつかうように腕を振り、力強いボールを次々に投げ込んでいって肩を温めた。そこに浮き足立つような素振りはない。
8月28日のドラゴンズ戦。敵地・バンテリンドームで岡林勇希に投じた1球目は、152キロのストレートだった。これから始まるキャリアへの決意表明のような力強い“まっすぐ”。4球目のスプリットで二ゴロに仕留めるなど、立ち上がりを乗り切るとリズムをつかんだ。
「1巡目で真っ直ぐで押せていたので、変化球でかわすというか攻められたのは良かった」と振り返ったように、常時150キロを超える直球主体で押し仕込んだ序盤。一方で、2巡目を迎えた中盤はスプリット、スライダー、カーブと変化球も織りまぜた。
5回までは初回の大島洋平に許した中前打だけに抑える1安打無失点。与えた四球は申告敬遠の1つだけという結果が示す通り、制球を乱して自滅する姿はない。ボールを自在に操り、球種で強弱もつける“大人の投球”を見せつけた。
「65点ぐらい」
失点シーンも、むしろ底を感じなかった。
二死三塁で3度目の対峙となった岡林勇希に対してギアチェンジ。140キロ台後半だった直球が再び150キロ台を計測するなど、力を振り絞って1点勝負の分岐点を抑えにかかった。
「(6回は)先頭を出したのは痛かったんですけど、それでも切り替えて。(岡林の場面は)詰めの甘さというかゾーンに投げて勝負していくにはコースの勝負球が甘かった。そこは課題になりますし、修正していきたい」
3ボール・1ストライクからの5球目、内角やや真ん中の152キロを右前に弾き返され、先制点を献上した。
追加点も奪われながら91球を投げ、6回を投げ切った18歳にスタンドからは惜しみない拍手が注がれていた。
筆者は秋山拓巳や藤浪晋太郎、才木浩人の1年目の一軍デビュー戦も見てきた。
東京ドームで悔し涙を流した秋山、神宮球場で疾風のごとく打者をなで斬った藤浪……。それぞれが、堂々たる18歳のピッチングだったと記憶している。
それでも、森木は彼らとはまた違った凄みや完成度、マウンドさばきで自身の“未来図”を描いて見せた。
「(自己採点は)65点ぐらいですね。できたこともあれば、できなかったこともある。自分の中では5回までは褒めて良いと思います」
残りの“35点”に無限のポテンシャルが広がる。
首脳陣は今季中に再び一軍登板のチャンスを与える予定だ。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)