8月以降、首位打者争いのライバルを引き離す
2004年の松中信彦(ダイエー)以来、18年ぶりの三冠王誕生が現実味を帯びてきた。
ヤクルトの若き主砲・村上宗隆の9月4日終了時の成績は、「打率.341」「51本塁打」「125打点」。3部門すべてでトップを快走している。
過去にも本塁打王と打点王の二冠に輝いた長距離打者は数多くいる。しかし、走力を活かして内野安打も稼げるアベレージヒッターと争わなければならない首位打者のタイトル獲得は、長距離打者にとっての最難関だ。
打率.322でセ・リーグ打率ランキング2位の大島洋平(中日)はまさに足を使える選手のひとり。
さらに3位以降には.315の佐野恵太と.309の宮﨑敏郎(ともにDeNA)といった首位打者獲得経験のある実力者が続く。
しかし、そのライバルたちを村上が振り切りつつある。
7月終了時点での村上の打率は.3160。その時点では.331の佐野だけでなく.318の宮﨑や.3165の大島にもリードを許していた。
それが8月以降は打率.437と驚異的な成績を残し続け、今ではライバルを逆転。そして完全に引き離した。
歴代三冠王のなかで最多本塁打・最多打点に?
今季の村上は1試合に欠場したのみで、ここまで120試合に出場。現在の成績をシーズン終了までの残り試合数を加えた142試合に換算すると、「打率.341」「60本塁打」「147打点」となる。
この数字を、三冠王の“先輩”たちの数字と比較する意味でも、ここで歴代三冠王の成績をあらためて振り返ってみる。
▼【歴代三冠王の成績】
▼ 中島治康(巨人/1938年秋)
打率.361
本塁打10
打点38
▼ 野村克也(南海/1965年)
打率.320
本塁打42
打点110
▼ 王 貞治(巨人/1973年)
打率.355
本塁打51
打点114
▼ 王 貞治(巨人/1974年)
打率.332
本塁打49
打点107
▼ 落合博満(ロッテ/1982年)
打率.325
本塁打32
打点99
▼ ブーマー・ウェルズ(阪急/1984年)
打率.355
本塁打37
打点130
▼ ランディ・バース(阪神/1985年)
打率.350
本塁打54
打点134
▼ 落合博満(ロッテ/1985年)
打率.367
本塁打52
打点146
▼ ランディ・バース(阪神/1986年)
打率.389
本塁打47
打点109
▼ 落合博満(ロッテ/1986年)
打率.360
本塁打50
打点116
▼ 松中信彦(ダイエー/2004年)
打率.358
本塁打44
打点120
これまでに誕生した三冠王は、延べ11人。落合博満が3度、王貞治とバースがそれぞれ2度の三冠王に輝いている。
三冠王のなかでの最高打率は、バースが1986年にマークした.389。なお、この数字はプロ野球記録でもある。さすがの村上も、ここまでの数字にはなかなか届かないだろう。
一方、三冠王のなかでの最多本塁打は、これまたバースが1985年にマークした54本塁打。8月以降の好調ぶりを思えば、この記録を今季の村上が塗り替える可能性は決して低くない。
また、三冠王のなかでの最多打点は、落合が1985年に残した146打点。バースが三冠王最多の54本塁打をマークしたシーズンと同年であり、1985年はセ・パ両リーグを通じて歴史的なシーズンだったといえそうだ。
単純計算による村上の今季終了時の予想打点は、落合の記録をわずかに超えるもの。本塁打と併せて記録更新への期待もかかるが、それ以前に現時点の125打点でも、すでに歴代三冠王のなかで4位の数字に達している。
令和初の三冠王へ向けて、村上がまさに歴史的な数字を残しつつある。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)