第2回:時代の寵児となった“村神様”に広告業界も熱視線
セ・リーグの8月度の月間MVP野手部門にヤクルト・村上宗隆選手が選出された。6、7月に次いで3カ月連続の受賞は15年の山田哲人選手(ヤクルト)以来、同リーグでは3人目の偉業となる。
目下、52本塁打(8日現在、以下同じ)。2.37試合に1本のホームランを叩き出しているペースを、残り20試合に当てはめると、8本強。
13年にウラジミール・バレンティン(ヤクルト)が記録した60本塁打の日本記録と並ぶ計算になる。
仮にそこまで行かなくても、王貞治の持つ日本人最多の55本塁打をクリアすれば4カ月連続の月間MVPも当確だろう。
52号を放った6日の阪神戦。セの最多勝レーストップを行く青柳晃洋投手からバックスクリーン横まで運んだ飛距離は圧巻だったが、それ以上に驚いたのは敵地・甲子園の雰囲気だ。
次打席で村上のフルスィングした打球がファウルになっただけで、球場全体を大きなどよめきが包む。敵も味方も虜にする存在は確かに「村神様」に昇華していた。
こんな怪物に、新たな商品価値が加わった。
今月4日には、ヤクルトの有力スポンサーである「オープンハウス」社から1億円の豪邸プレゼントが発表されたのだ。条件は村上が56号以上を本拠地の神宮球場で放つこと。これをクリアすれば都内の一等地に1億円の家が贈呈されるというもの。何とも夢のあるビッグボーナスである。
22歳の若者が作り出す異次元の世界。通算100号、150号と区切りの本塁打を放つたびに王貞治、清原和博、松井秀喜ら球界のレジェンドの記録を超えていく。おそらく、「村神様」のフレーズも今年の流行語大賞の有力候補にノミネートされるだろう。
今オフに広告業界で村上争奪戦が勃発?
今や、時代の寵児となった村上に広告業界も熱視線を送る。
「あの若さと怪物性に童顔もいい。このオフには村上争奪戦が起こるでしょう」とある広告代理店の幹部が語る。
スポーツ選手のCM起用は意外に難しい。「元気ハツラツ」の時はいいが、翌年に成績不振に陥ってはイメージも台無し。野球界で言えば現役引退後も多くのCMに起用されるイチローさんは、そんな心配もなく、常に挑戦の姿勢が高く評価されているからだ。
今年に限れば“BIG BOSS”日本ハムの新庄剛志監督や現役を退いてまもない松坂大輔、斎藤佑樹氏らの起用が目を引くが、いずれも成績とは無縁の話題性に白羽の矢が立てられたもの。だが、今季の村上の働きはこうした広告業界の“不文律”をも突き破るものがあると言う。
プロ入り5年目で数々の記録を樹立する成績面から見ても、故障でもない限り、急激な不振は考えられない。今や人気は全国区。コロナ禍や物価高の暗い世相にあって、明るいニュースターの誕生が待ち遠しい。
「本社のヤクルトをはじめとした健康食品や、あの親しみやすい笑顔から子供向けの商品、さらに怪物のイメージに合わせたブルトーザーのような重機械への起用も面白い」と、別の広告業界の人物は具体的なCM起用プランを語る。
1億円の豪邸プレゼントを発表した「オープンハウス」社はテレビ、新聞、ネットでこの話題を取り上げられただけで、すでに1億円以上の広告価値を手にしたと言われる。
ヤクルトの残り試合のうち、神宮では10試合。今後も3試合に1本ペースでアーチを量産していけば、今月22日の中日戦から28日の阪神戦まで6試合が神宮開催だから、55号、56号以上も現実味を帯びて来る。
リーグ連覇に、三冠王に、1億円豪邸まで視野に入る実りの秋。CM業界も日本球界の話題を独占する男を放っておくわけがない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)